■外来で特に役割大きく
癌専門病院の薬剤師が患者に介入することで副作用回避や重篤化を防いだ結果、年間3688万円に上る医療費削減効果が得られたことが、がん研究会有明病院薬剤部の研究で明らかになった。プレアボイド報告から、リスクに応じて医薬品副作用被害救済制度の平均支給金額をもとに算出した。先行研究と比べても医療費削減効果が上回る結果となっており、癌専門病院として薬学的介入による医療費削減効果が初めて示された格好だ。
薬剤師が薬物療法に関連した患者の副作用などの不利益を回避、軽減し、薬学的介入をした事例は、プレアボイド事例として日本病院薬剤師会に報告することとなっている。医薬品医療機器総合機構(PMDA)によると、医薬品副作用被害救済給付は毎年20億円以上の支払いが報告されている。
同院薬剤部では、病棟担当・外来担当薬剤師が実施した薬学的介入を処方提案に記載し、その一部をプレアボイドとして報告している。昨年4月から今年3月までの1年間に同院で実施した処方提案4829件とプレアボイド報告として提出した270件を調査し、癌専門病院で勤務する薬剤師の薬学的介入の現状と医療費削減効果を評価。医療費削減効果額は、2021年度にPMDAが行った医薬品副作用被害救済給付制度を根拠に算出した。
その結果、プレアボイド報告から得られる医療費削減効果額は3688万1183円となった。7種類に分類したプレアボイド報告のうち、医療費削減効果の金額上位は「重大な副作用回避または重篤化回避」(9件)が合計1763万円と最も多く、「癌化学療法への介入」(110件)が1123万円と続いた。
プレアボイド報告に基づく医療費削減効果を評価した先行研究では、1件当たり10万9167円の医療経済効果とされていたが、同院での研究では1件当たり13万6597円と高い効果が示された。
報告されている重大な副作用の回避、重篤化の回避事例では、「エドキサバン錠投与中に消化管出血を発見し、中止を提案」「肝機能障害患者にレンボレキサント錠の処方があり、スボレキサントに変更を提案」「スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠投与中にカリウム値上昇のため減量を提案」などが挙げられた。
薬剤師が癌化学療法に介入した110例の内訳を見ると、入院が69例、外来が41例となり、「支持療法の提案」がそれぞれ68%、61%と大半を占めた。外来は医師の診察前に薬剤師が面談を行うため「治療計画に関する提案」が37%と介入の割合が高かった。
同院薬剤部は「癌専門病院であるため、重大な副作用や重篤化の回避、癌化学療法への介入機会が多く、他院に比べても医療費削減効果が高い。特に外来は8割以上が癌化学療法への介入であるため、医薬品の副作用を回避、軽減するために薬剤師の役割は大きい」としている。
今回の研究成果に基づき、国に対して病院薬剤師が副作用の回避などで果たしている役割をアピールしていきたい考え。一方で、処方提案件数のうちプレアボイド報告件数が5.6%と低かったことについては「もっと報告件数を多くする取り組みが必要」と課題に位置づけている。