アルツハイマー病の脳内アミロイドβ蓄積を早期に測定するには?
三菱電機株式会社は9月7日、1kHz以下の低周波でもヒトの脳サイズの領域の磁気粒子を高感度に撮像でき、電源装置の大型化を抑えた「磁気粒子イメージング装置」を世界で初めて開発したと発表した。この研究開発は、同社と岡山大学、大阪大学大学院工学研究科が共同で行ったもの。研究成果は、「WMIC(World Molecular Imaging Congress)」(開催国:チェコ)で9月9日に発表される予定になっている。
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日本における65歳以上の認知症患者数は、2025年には700万人に達すると見込まれている。また、認知症患者のうち67.6%をアルツハイマー病が占めるという統計結果もある。国内では2023年6月、認知症の予防を促進する「認知症基本法」が成立し、8月には、アルツハイマー病の発症要因となり得る脳内に蓄積したアミロイドβを除去し、病状の進行を抑制する治療薬の製造販売承認が厚生労働省の専門部会で了承されている。脳内のアミロイドβの蓄積が少ない段階で早期に投薬治療を開始することが発症抑制につながることから、アミロイドβの蓄積量や分布を測定する技術が求められている。
磁気粒子イメージング装置での実用化には「電源の大型化」という課題
磁気粒子イメージング装置は、コイルが発する交流磁場により、体内に注入した磁気粒子の磁気信号を誘起し、これを検出することで、3次元画像を生成する装置である。研究グループは、この装置を用いて、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβに結合する磁気粒子を撮像することで、アミロイドβの蓄積量とその分布を測定し、アルツハイマー病発症前の画像検査の実現を目指している。
交流磁場の周波数が高いほど磁気信号を高感度に検出できるため、すでに製品化されているマウスなどの小動物用の小型装置では、25kHz前後の高い周波数が使用されている。同等の周波数を用いて、ヒトの脳サイズの領域を撮像可能な大きさに装置を大型化した場合、コイルが大きくなることで負荷が上がり、必要な電源容量が増大するため、電源装置が非常に大型になることが実用化を妨げる要因の一つとなっていた。
ノイズを最小化できる構造を確立、1kHz以下の低周波/小型電源で高感度に撮像
今回、三菱電機がさまざまな機器開発で培ってきた電磁気学技術を深化させ、交流磁場を発生するコイルと、信号検出コイルの配置を精密に調整し、磁気信号の検出の障害となる不要な信号(ノイズ)を最小化できる構造を確立したことで、1kHz以下の低周波でもヒトの脳サイズの領域の磁気粒子を高感度に撮像でき、電源装置の大型化を抑えた装置を世界で初めて開発した。
また、低周波化することで、電源容量を小動物用サイズの磁気粒子イメージング装置の4倍にまで抑制し、電源装置の大型化を大幅に抑えられたことで、世界で初めて、低周波かつ小型電源でヒトの脳サイズの撮像が可能な「磁気粒子イメージング装置」(本体外形:W1,600mm×D2,000mm×H1,900mm、コイル内径300mm、検査領域直径180mm)となった。
2030年頃の実用化を目指す
磁気粒子イメージング装置を用いたアルツハイマー病発症前の画像検査の実現にあたっては、磁気粒子イメージング装置のさらなる高感度化、高解像度化が必要で、また、検査装置としての実用化に向けては、安全性や有効性を確認するための臨床試験が必要となる。「2030年頃に実用化の目途を付けることを目標に、他社との協業も視野に入れて検討を進めていく」と、研究グループは述べている。
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