腸管粘膜に存在する樹状細胞の樹状突起の伸長を誘導する因子は不明だった
岡山大学は9月7日、短鎖脂肪酸が樹状細胞の樹状突起伸長を促進することで免疫応答を促進することを発見、そのメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科の稲本拓歩大学院生(博士前期課程2年)、同大学術研究院医歯薬学域の古田和幸准教授、石川一也助教、垣内力教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The FEBS Journal」にオンライン掲載されている。
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樹状細胞は病原細菌などを取り込み、T細胞に提示することで病原体の排除のための免疫応答を誘導する役割を持つ。樹状細胞は全身に分布しているが、局在する周辺の因子によって性質が変化することが知られている。
腸管粘膜に存在する樹状細胞は、腸管に病原性の細菌が侵入するとそれらを取り込み、免疫応答を誘導する。これまでに腸管粘膜の樹状細胞が腸管上皮細胞を横断し、腸管腔へ樹状突起を伸長させることで病原体を取り込むことが報告されている。しかし、どのような因子が突起の伸長を促進するのかは完全には明らかにされていなかった。
腸内細菌が産生する「短鎖脂肪酸」が樹状突起の伸長を誘導することを発見
ヒトなどの生体内の腸管に存在する腸内細菌は、さまざまな成分を産生することで生体に影響を与えることが知られている。その中でも、プロピオン酸、酪酸、吉草酸といった短鎖脂肪酸は、腸内細菌が産生し腸管内に高濃度で存在する。
研究グループは今回、短鎖脂肪酸が樹状細胞の樹状突起の伸長を促進することを見出した。また、突起伸長を誘導するメカニズムを解析し、短鎖脂肪酸によるヒストン脱アセチル化酵素の阻害が、樹状細胞のアクチン細胞骨格の再構成を促進し、形態変化を誘導することを明らかにした。
短鎖脂肪酸による突起伸長の誘導が、腸管の樹状細胞による免疫応答を促進
また、短鎖脂肪酸で刺激された樹状細胞では、細胞外からの病原体の取り込み機能、およびT細胞への抗原提示機能が亢進していたことから、短鎖脂肪酸による突起伸長の誘導は、腸管の樹状細胞による免疫応答を促進すると考えられたとしている。
プロバイオティクスを用いた疾患予防・治療法開発への貢献に期待
腸管などの生体に侵入した病原体が排除されるためには、樹状細胞が病原体を取り込み、免疫応答が活性化されることが重要だ。今回の研究から、樹状細胞は腸管では、腸内細菌の産生する短鎖脂肪酸による刺激によって突起伸長を促進することで、免疫応答を活性化することが考えられる。
「本研究成果は今後、プロバイオティクスといった有益な細菌を活用した疾患予防や、樹状細胞の機能調節を標的とした新たな疾患治療や薬の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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