従来のスクリーニング方法では見逃されている患者が多かった心房中隔欠損症
慶應義塾大学は9月7日、新しい深層学習法による心房中隔欠損症の診断モデルを開発し、その診断の有効性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部内科学教室(循環器)の三浦光太郎助教(研究当時、現在:平塚市民病院循環器内科医長)、同スポーツ医学総合センターの勝俣良紀専任講師、Brigham and Women’s HospitalおよびHarvard Medical Schoolの八木隆一郎リサーチフェロー、獨協医科大学埼玉医療センター板橋裕史准教授、東海大学医学部医学科総合診療学系総合内科学およびBrigham and Women’s Hospitalの後藤信一講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「eClinical Medicine」に掲載されている。
心房中隔欠損症は最も一般的な先天性心疾患であり、子どもの頃に指摘されることもあれば、成人になるまで気付かれないこともある。症状が軽いため、聴診や心電図などの通常の検査でも見落とされることがあり、そのまま治療されずにいると、時に心不全、不整脈、脳卒中などの重篤な合併症を発症するリスクが高まる。これまでのスクリーニング方法では、見逃されている患者が多かったため、新しいアプローチが必要とされている。
心電図を利用、人工知能による診断モデルを開発
今回の研究では、日本の慶應義塾大学病院(以下、慶應)、獨協医科大学埼玉医療センター以下、(獨協)、米国のハーバード大学ブリガムアンドウィメンズ病院(以下、BWH)から得られた心電図と心エコーのデータを利用して、診断モデルの開発と検証を行った。
慶應とBWHのデータを使い、主に画像認識の分野で用いられるディープラーニングアルゴリズムの1つである2次元畳み込みニューラルネットワークを訓練。その性能を、慶應とBWHのテストデータセットおよび外部検証のための獨協のデータセットを用いて評価した。
年齢・性別・BMI・人種などの要因に影響されず、一貫した性能を発揮
開発された人工知能モデルは、慶應ではAUCが0.90、BWHでは0.88、獨協では0.85であり、どの施設のデータでも優れた性能を示した。このことから、年齢、性別、BMI、人種などの要因に影響されず一貫した性能を発揮していることがわかったとしている。
従来の心電図所見によるアプローチより感度が高い
さらに、従来の心電図所見によるアプローチよりも、このモデルの感度が高く、早期発見に適していることがわかった。また、治療が必要な患者の検出においても、優れた性能があることが確認された(AUC 0.91)。
早期発見・治療が可能になることに期待
心電図は手軽に行える検査であり、多くの人が病院やクリニックで簡単に受けることができる。同モデルは人間の目では判断できない心電図の僅かな変化を検出し、心房中隔欠損症を高精度に特定することができるという。同モデルが検診などで広く利用されることで早期発見と早期治療が可能となり、多くの人々に健康な未来をもたらすことを目指す、と研究グループは述べている。
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・慶應義塾大学 プレスリリース