歯並びや姿勢などに影響する口唇閉鎖不全、子どもの有病率は30.7%
鹿児島大学は9月4日、口の体操の一つである「あいうべ体操」の、子どもの口唇閉鎖不全に対する効果を明らかにしたと発表した。この研究は、同大病院小児歯科の稲田絵美講師らの研究グループと、朝日大学歯学部小児歯科学分野の齊藤一誠教授、海原康孝准教授らとの共同研究によるもの。研究成果は、「Archives of Oral Biology」に掲載されている。
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子どもの「お口ぽかん」(口唇閉鎖不全)は日常的に唇が開いた状態になってしまうため、口の乾燥によりむし歯や歯肉の炎症を引き起こし、口腔内環境を悪化させる。また、唇を閉じる力(口唇閉鎖力)が弱いため、歯を取り囲んでいる唇・頬と舌の力のバランスが崩れてしまい、上の前歯が出っ歯(上顎前歯の唇側傾斜)になったり、上顎の横幅が狭く(上顎歯列弓の狭窄)なったりすることで歯並びが悪くなることが少なくない。さらに、アレルギー疾患を誘発する、姿勢が悪くなる、集中力が低下する等の弊害も報告されている。
日本人の子どもたちを対象に、口唇閉鎖不全の有病率を調べた過去の研究では、3~12歳までの子どもの30.7%が口唇閉鎖不全の状態であること、その有病率は年齢とともに増加すること、さらに、自然に改善することが期待しにくい習癖であることが明らかとなっている。このことから、口唇閉鎖不全は積極的に対応するべき歯科疾患であると考えられる。
口唇閉鎖不全に対しては、鼻づまりや極端な歯並びの異常がある場合を除き、口唇閉鎖力を強くさせるための体操を優先して行う。しかし、子どもに対する体操の効果やその有効性については明確にされていない。
3~4歳の幼稚園児が1年間毎朝「あいうべ体操」を実施
研究グループは、鹿児島県内の幼稚園に通園する3~4歳の子ども123人を「体操群」として、1年間「あいうべ体操」を実施した(期間:2015年~2018年)。「あいうべ体操」は、唇を「あ・い・う」の順番に動かし、最後に舌を「べ」と前へ突き出す運動が1セット。これを毎朝幼稚園で36セット実施した。そして、子どもたちの口唇閉鎖力と口元の形の変化について、2009年~2013年に同幼稚園に通園し、体操を実施していない3~4歳の子ども123人の対照群と比較した。
体操をした子どもは、唇を閉じる力が強くなり、口元が引き締まる
両群とも口唇閉鎖力は1年間で成長により増加したが、体操群はより増加量が大きいことがわかった。また、口元は両群とも成長により引き締まる傾向にあったが、下唇については体操群の方がより引き締まることがわかった。
さらに、体操群の中でも口唇閉鎖力が弱い34人(27%)と対照群の中でも口唇閉鎖力が弱い37名(30%)だけを対象として口唇閉鎖力と口元の形を比較した。その結果、両群とも口唇閉鎖力は1年間で成長により増加したが、体操群の方がより増加量が大きいことがわかった。また、口元の形については、体操群は上唇、下唇、上下唇いずれも引き締まる傾向があったが、対照群は上唇、下唇、上下唇いずれもより前に出る傾向があり、お口ぽかんの状態が見た目でも分かりやすくなる可能性が示唆された。
以上の結果から、口の体操である「あいうべ体操」は口唇閉鎖不全を解消する方法の一つとして有効であることが示された。
口腔機能の発達不全に対する積極的な訓練を含む治療や体操が必要
これまで歯科領域では、むし歯治療のような疾患の修復に重点が置かれていた。しかし近年は、「食べる」「話す」「呼吸する」といった口腔機能を獲得・維持・回復することが重要視されるようになった。これに伴い、2018年4月からは、ライフステージに応じた口腔機能管理の推進のため、口腔機能の発達不全を認める子どもの口腔機能の評価や治療、管理について健康保険が適用されるようになった。子どもの時期の口腔機能は常に発達・獲得の過程にある。将来起こり得る問題を未然に防ぐためにも、口腔機能の発達不全に対する積極的な訓練を含む治療や体操が必要だ。
「お口の体操にはさまざまな方法があるが、子どもや子どもを取り巻く環境に適したものを取り入れながら継続することが重要。今後も子どもの口腔機能に関する病態解析や治療・訓練効果の検証を進めることで、子どもの健やかな成長発育を支援していきたい」と、研究グループは述べている。
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