経皮的なレーザー照射が神経伝達にどのような影響を与え、どの程度届くのか?
富山大学は9月1日、皮膚の上からレーザーを照射することで痛みを伝える神経細胞の活動を抑制することを、電気生理学的手法を用いた動物実験で検証したと発表した。この研究は、同大学術研究部薬学・和漢系 応用薬理学研究室の歌大介准教授、帝人ファーマ株式会社の石橋直也研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Medicine」に掲載されている。
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低出力レーザー治療は、痛みの緩和、抗炎症効果、組織再生、傷の治癒など、さまざまな効果が報告されている治療法だ。日本では炎症による疼痛の緩和に保険適用があり、リハビリテーション領域で使用されている。
しかし、低出力レーザー治療がどのように痛みを緩和するのか、そのメカニズムは解明されていない。また、レーザーは皮膚や筋肉によって散乱し吸収されるため、深部の組織になるほどレーザーは届きにくく、効果も弱くなる可能性がある。ターゲットとする組織にどの程度のレーザーが到達すれば効果があるのか、統一的な見解は存在しない。
そこで研究グループは今回、経皮的なレーザー照射が神経伝達にどのような影響を与えるか、電気生理学的手法を用いて評価した。さらに、経皮的にレーザーを照射した際、坐骨神経にレーザーがどの程度届くのか、フォトダイオードセンサを使って検証した。
坐骨神経への経皮的レーザー照射は、痛み刺激による神経活動を選択的に抑制
研究では、成熟ラットの脊髄後角に記録電極を刺入し、皮膚に機械刺激を加えることで脊髄後角の神経細胞の発火を記録した。機械刺激を加えるため、決まった圧力を加えることのできるvon Freyフィラメントを使用し、痛み刺激にあたる太いフィラメント、痛みと感じない弱い刺激(触刺激)にあたる細いフィラメントを使用した。波長808nmの半導体レーザーを使用し、臨床の使用方法と同様に、経皮的にレーザーを照射した。次に、成熟ラットの坐骨神経にフォトダイオードセンサを埋め込み、経皮的にレーザーを照射することで、レーザーが坐骨神経に到達するのか検証した。
その結果、坐骨神経への経皮的レーザー照射は触刺激による神経活動には影響せず、痛み刺激による神経活動を選択的に抑えることが明らかになった。これは、低出力レーザー治療が、触覚に影響を与えずに疼痛を治療できる可能性を示している。さらに、フォトダイオードセンサによる計測で、レーザーは皮膚で約90%が減少し、残り約10%が坐骨神経に到達したことが示された。過去に報告した坐骨神経に直接レーザーを照射した時と、同研究の経皮的レーザー照射とで効果を比較したところ、神経活動の変化率は同等だったという。坐骨神経におけるレーザーの強さが皮膚上の約10%に減少したにも関わらず効果は同等であることから、低出力レーザー治療が比較的広いレーザーの強さで効果を発揮することを示唆している。
経皮的レーザー照射のさらなる普及・適応疾患拡大に期待
低出力レーザー治療が神経活動を抑制する現象の理解が深まることで、治療の適用範囲が広がり、より多くの人々に利用されることが期待される。「現在は疼痛モデル動物を使用した基礎検討を行っており、低出力レーザー治療がどのように痛みを取り除くのか、治療の仕組みを解明していく予定」と、研究グループは述べている。
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・富山大学 プレスリリース