母親の環境因子との関連は以前から指摘、検討不十分だった
国立成育医療研究センターは9月5日、全国約10万人のエコチルデータを用いて母子ペアを妊娠中から3歳まで追跡調査し、子どもの先天性心疾患発症に母親の妊娠初期のビタミンAサプリメント摂取、バルプロ酸内服、降圧薬内服、先天性心疾患の既往、母親の年齢、妊娠中期のヘモグロビン血中濃度(貧血の指標)が関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター臨床研究センターデータサイエンス部門の小林徹氏、朴慶純氏、岩元晋太郎氏、横浜市立大学エコチル調査神奈川ユニットセンターの河合駿氏、伊藤秀一氏らが日本小児循環器学会と協同で行ったもの。研究成果は、「Journal of the American Heart Association」に掲載されている。
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子どもの先天性心疾患発症に母親の基礎疾患や妊娠中の薬剤摂取を含めた環境因子が関連することが数十年前から提唱されていた。一方、日本では妊娠初期から子どもの先天性心疾患診断までを前向きに追跡した大規模研究はほとんどなく、妊娠期の女性の生活習慣の変化によってどのような環境因子が子どもの先天性心疾患発症の原因となるかについては十分検討されていなかった。今回、大規模な前向きコホート研究であるエコチル調査のデータを利用し、現在の日本人において母親の背景や環境因子が子どもの先天性心疾患発症にどのように関与するかについて詳しく調査した。
2011~2014年にエコチル調査に参加した親子を対象に調査
研究グループは、2011年1月から2014年3月にエコチル調査に参加した妊婦とその子ども、9万1,664ペアを対象に調査した。母親の妊娠中から行っている自記式アンケートと医療者へのアンケートを利用し、3歳までの先天性心疾患診断と母体環境因子の関連について疫学的に分析を行った。
先天性心疾患を持っていた子どもは1,264人(1.38%)で、そのうち心室中隔欠損症や心房中隔欠損症などの単純型先天性心疾患は1,039人(1.13%)、ファロー四徴症や単心室などの複雑性先天性心疾患は181人(0.18%)の頻度だった。
6つの因子が判明、「妊娠初期の母親のビタミンAサプリメント摂取」が特に高値
その結果、妊婦の食事による栄養摂取や、学歴・収入などの社会的背景が子どもの先天性心疾患発生リスクと関連を示さなかった一方、次の6つの因子が子どもの先天性心疾患発症リスクにそれぞれ関連することが明らかとなった。具体的には、「妊娠初期の母親のビタミンAサプリメント摂取」で約5.8(調整オッズ比、以下同)、「バルプロ酸内服」で約4.9、「降圧薬内服」で3.8、「先天性心疾患の既往歴」で約3.4、「母親の年齢40歳以上」で約1.6、「妊娠中期のヘモグロビン血中濃度(貧血の指標)」で約1.1だった。
「妊娠初期のビタミンAを含むサプリメント摂取自粛」の普及が望まれる
今回の大規模な調査によって、日本における子どもの先天性心疾患発生に関連する複数の母親のリスク因子が明らかになった。特にビタミンAサプリメントは妊娠初期の女性に対して先天性心疾患を含めた先天奇形発症リスクを高める懸念から、その摂取は現在推奨されていない。
「今回の研究においても過去の研究と同様の結果が得られていることから、改めて妊娠初期や妊娠を希望する女性はビタミンAを含むサプリメントの摂取を控えるよう、知識の普及が望まれる。また、バルプロ酸や降圧薬に関しては元となっている病気のコントロールも重要なため、主治医と十分に相談することが勧められる」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース