長期間の腹膜透析、腹膜の肥厚・機能低下により除水効率が低下
京都大学は8月31日、MMP-10(マトリックスメタロプロテアーゼ10)遺伝子が欠損しているマウスにおいて、腹膜の肥厚や線維化が軽減していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科腎臓内科学の横井秀基講師、柳田素子同教授、石村拓也同研究生ら、関西電力病院、神戸市立医療センター中央市民病院、国立病院機構京都医療センター、田附興風会医学研究所北野病院の研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney International」にオンライン掲載されている。
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腹膜は、腹腔臓器を覆っている膜状の組織であり、腹部臓器の動きを滑らかにし保護する働きがある。本来、腹膜は非常に薄く、単層の中皮細胞層とその下の間質層から構成されている。腹膜は、一定の大きさ以下の分子またはイオンのみを透過させる半透膜という性質がある。その働きを利用して体の老廃物を「拡散」で、水分を腹膜透析液中のグルコースの「浸透圧」を利用して排出する治療が腹膜透析だ。これは、自分の腎機能が低下し、老廃物や水分を十分に排泄できない患者に対して行われる治療だが、長期間腹膜透析を行うと次第に腹膜の肥厚・機能低下を引き起こし、除水効率が悪くなる欠点がある。
研究グループはこれまで腹膜機能低下の原因となる因子を研究してきており、PleiotrophinやCTGFなどのタンパク質を原因因子として報告してきた。
マウスの傷害腹膜でMMP-10発現亢進を発見、KOではNF-κBを介し腹膜肥厚抑制
今回の研究では、傷害されたマウス腹膜において上昇している遺伝子を、マイクロアレイ解析を用いて網羅的に検索。その中でも、特にMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)ファミリーに着目し、上昇率の高いMMPの中からMMP-10について、その働きを調べた。まず、傷害された腹膜ではMMP-10の発現が亢進していること、特に、中皮細胞やマクロファージに存在していることが明らかになった。
そこで、MMP-10遺伝子が欠損しているマウス(MMP-10 KOマウス)の腹膜に同様の障害を起こした。その結果、野生型マウスと比べて明らかに腹膜の肥厚が抑制されていたという。また、腹膜の物質透過性を調べる腹膜平衡機能検査では、野生型マウスでは物質透過性が亢進していたが、MMP-10 KOマウスで有意に物質透過性が維持されていた。炎症や線維化に関連する遺伝子発現が、MMP-10 KOマウスでは抑制されており、その機序には転写因子NF-κBが関わっていることを明らかにした。
ヒト腹膜でも障害が進むほどMMP-10濃度上昇
続いて、ヒトにおけるMMP-10の意義を検討するために、腹膜透析患者の血清中MMP-10濃度を調べた。その結果、腹膜の障害が進む(腹膜の物質透過性が上昇する)ほどMMP-10濃度が上昇していた。ヒト腹膜でも、MMP-10が腹膜機能低下に重要な働きを呈している可能性が示唆された。
MMP-10など新たな治療ターゲット発見に期待
腹膜透析における腹膜機能低下は、いまだ有効な治療法が確立していない。今後、MMP-10を始め新たな治療ターゲットが発見されることが期待される、と研究グループは述べている。
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・京都大学 プレスリリース