ILC2活性化因子は数多く報告、抑制因子はほとんど不明
京都大学は8月29日、リンパ球の表面に発現するタンパク質CD45が、肺の炎症や線維化に関わる2型自然リンパ球(ILC2)の抑制因子であることを明らかにし、CD45がILC2を介してアレルギー性肺疾患や肺線維症の発症を抑制していることを発見したと発表した。この研究は、同大医生物学研究所の生田宏一教授、崔广為同助教(研究当時)、医学研究科人間健康科学系専攻の榛葉旭恒助教、理化学研究所生命機能科学研究センターの城口克之チームリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」にオンライン掲載されている。
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ILC2は、IL-33やIL-25などの組織損傷の際に放出されるサイトカインにより活性化し、細胞数が少ないにも関わらず、迅速かつ大量に2型サイトカインを産生することで、寄生虫や真菌感染に対する免疫応答において大きな役割を担っている。一方、ILC2の活性化はアレルギー性疾患である喘息や難治性疾患である肺線維症の発症と増悪にも関与している。したがって、ILC2の増殖と活性化を抑制する機序を明らかにすることは、炎症の収束や喘息と肺線維症の発症を防ぐために非常に重要だ。しかし、ILC2の活性化因子が数多く報告される中、ILC2の抑制に関わる因子についてはほとんど不明だった。
CD45欠損ILC2、2型免疫応答亢進の遺伝子発現様式を示す
今回の研究では、まず医生物学研究所にて新たに発見した自然突然変異のCD45欠損マウスにおいて、造血細胞分化の場である骨髄内のILC2細胞数、特に、KLRG1陽性の成熟ILC2細胞数が増加し、肺のILC2が過剰な活性化状態にあることを見出した。また、CD45欠損骨髄細胞を用いた競合的骨髄移植実験においてCD45欠損ILC2が著しく増加したことと、CD45欠損ILC2の刺激培養で2型サイトカイン産生が亢進することを示した。続いて、デジタルRNAシーケンス法を用いた網羅的遺伝子発現解析により、CD45欠損ILC2において増殖や成熟、細胞内代謝、2型サイトカイン産生と線維化に関係する遺伝子の発現が変動し、2型免疫応答が亢進する遺伝子発現様式を示すことがわかった。
CD45欠損ILC2細胞で解糖能亢進、グルコースの細胞内取り込み上昇
さらに、CD45欠損ILC2細胞内でSrcファミリーチロシンキナーゼのリン酸化が高レベルで維持され、CD45分子のホスファターゼ活性阻害剤の投与により過剰な2型サイトカイン産生が抑制されることを見出した。また、高感度の細胞内代謝測定法を用い、CD45欠損ILC2細胞で解糖能が亢進し、グルコースの細胞内取り込みが上昇していることを明らかにした。
CD45、ILC2を介して喘息や肺線維症の発症抑制
最後に、CD45欠損ILC2の病態に対する影響を調べるため、パパイン誘導性気道炎症モデルとブレオマイシン誘導性肺線維症モデルを用いた。気道炎症モデルにおいて、CD45遺伝子欠損マウスまたはCD45欠損ILC2を移入したマウスでは、好酸球の著しい増加や気道炎症の増悪を認めた。一方、肺線維症モデルにおいて、CD45遺伝子欠損マウスでは肺間質の線維化の亢進を認めた。さらに、CD45を含む細胞表面タンパク質に結合するガレクチン-9を気道炎症モデルマウスに投与することで炎症が抑制されることを見出した。以上の結果から、ILC2抑制因子としてCD45を新たに同定し、CD45がILC2を介して喘息や肺線維症の発症を抑制することを明らかにした。
喘息や肺線維症の治療薬開発への発展に期待
今回の研究により、ILC2抑制因子としてCD45を新たに同定したことで、ILC2の制御機構に新しい理解をもたらした。CD45が適応免疫系のT細胞には促進的な働きを、自然免疫系のILC2細胞には抑制的な働きをすることから、CD45が適応免疫と自然免疫のバランスを調節する可能性を示唆している。さらに、CD45がILC2を介して喘息や肺線維症を軽減させることを明らかにした。今後は、ILC2上のCD45に特異的に作用するリガンドの探索を進め、CD45を介してILC2を効率的かつ特異的に抑制する方法を見出し、喘息や肺線維症の治療薬の開発に発展させることが期待される、と研究グループは述べている。
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