経管栄養を受ける児を対象に、胃ろう食摂取と腸内細菌叢との関連を細菌学的に検討
東京医科歯科大学は8月28日、胃ろう食の有用性を細菌学的な観点から証明したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科 歯周病分野の片桐さやか准教授、大杉勇人助教、同分野助教/ハーバード大学歯学部 口腔内科・感染・免疫学分野 歯周病学講座の芝多佳彦客員助教、摂食嚥下リハビリテーション学分野の吉見佳那子助教、中川量晴准教授、戸原玄教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in microbiology」オンライン版に掲載されている。
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さまざまな疾患や障害により、日常的に人工呼吸器や経管栄養などの医療ケアが必要な医療ケア児の数は全国で2万人ほどと報告されている。口から十分な栄養を摂取することが難しい場合は、チューブやカテーテルなどを使って胃や腸に必要な栄養を直接注入する経管栄養による栄養管理が行われる。通常はカロリーや水分量などさまざまな栄養素が調整された既製の経腸栄養剤を注入することが多いが、普段の食事をミキサーにかけたり、ミキサー食を作って注入する方法もあり「胃ろう食」と呼ばれている。
「ママと子の胃ろう食推進委員会」は、在宅で療養する医療ケア児や嚥下障害患者とその家族で作られたコミュニティで、胃ろう食に関する情報の共有や発信をしている。胃ろう食を始めてから体調が良くなった、便通が良くなった、などの報告はいくつかあるが、胃ろう食の効果を学術的に調査した研究はこれまでなかった。
そこで研究グループは今回、同委員会協力のもと、経管栄養を受ける小児を対象として、胃ろう食の摂取と腸内細菌叢との関連を細菌学的に検討した。
胃ろう食摂取群の腸内細菌叢は経腸栄養剤摂取群に比べ、腸内細菌叢が多様化
研究は、経管栄養による栄養管理を受ける8~17歳までの男女11人を対象に行った。主に既製の経腸栄養剤を使用している6人と、主に胃ろう食を摂取している5人の2つのグループに分け、唾液と便を採取。次世代シークエンサーを用いて口腔内および腸内細菌叢の細菌種の同定、細菌種間の相関関係、その細菌叢の予測される機能(機能遺伝子)を解析した。
その結果、経腸栄養剤と胃ろう食の摂取では、細菌の組成が異なることが明らかになった。また、胃ろう食を摂取することにより、グループの腸内細菌叢では、検出された菌種の数と均一性(均等度)を示す「シャノン指数」と、検体中に存在する菌種の数の推定値で種の豊富さを示す「Chao1」が有意に増加しており、腸内細菌叢が多様化していた。加えて、Proteobacteria門、Gammaproteobacteria綱、Escherichia-Shigella属の相対量が有意に低く、Ruminococcus属の相対量は有意に高い値を示したことから、胃ろう食で腸内細菌叢の組成が変化することが示された。
胃ろう食摂取群で口腔・腸内細菌叢の遺伝子機能増加、菌同士のネットワークも複雑化
遺伝子の機能性を予測するメタゲノム解析では、胃ろう食を摂取するグループで、口腔および腸内細菌叢の遺伝子機能が増加し、細菌の持つ代謝経路も増加していた。さらに、菌同士の相関関係を示すネットワーク構造も、より複雑に構築されていることを発見したとしている。
食の楽しみを共有できる「胃ろう食」による健康増進効果に期待
今回の研究により、口から食べることが困難で経管栄養管理を受ける児が胃ろう食を摂取することで、口腔内と腸内の細菌叢の組成が変化し、さらに腸内細菌叢の多様性が増加し、細菌ネットワークにも影響することが示された。また、胃ろう食は家族が子どもに食べさせたいものや一緒に食べたいものを注入でき、食の楽しみを皆で共有できるメリットもある。胃ろうからの食事によって腸内細菌叢が変化することで、全身の健康にも良い効果が得られる可能性が、細菌学的に示された。
「これらは今後の経管栄養管理において、学術的・社会的に意義のある成果と言える。胃ろう食の社会的な認知度を高めるためにも、ママと子の胃ろう食推進委員会の代表・久保詩織さんの了承を得て、Facebookの情報を掲載する」と、研究グループは述べている。
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