胎生期の血液細胞塊形成と造血幹細胞維持にSox17はどのように関与するのか
東京医科歯科大学は8月24日、胎生期に初めて造血幹細胞が出現する時期の造血幹細胞の維持に関与する転写因子Sox17の新たな分子機構として、Ras interacting protein1(Rasip1)遺伝子の発現制御領域に直接作用し発現を誘導することが、造血能維持に必要であることを突き止めたと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所幹細胞制御分野のメリグ ゲレル大学院生、田賀哲也教授、中村学園大学栄養科学部栄養科学科の信久幾夫教授(東京医科歯科大学非常勤講師併任)、東京医科歯科大学実験動物センター、東京大学医科学研究所、東京大学農学生命科学研究科、京都大学iPS細胞研究所らの研究グループによるもの。研究成果は、「Inflammation and Regeneration」にオンライン掲載されている。
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造血幹細胞は、全ての血液細胞を生み出す。哺乳類において、胎生期に最初に造血幹細胞が生じるのは、大動脈に存在する血液細胞と血管内皮細胞の共通の起源細胞から、大動脈内腔に出芽するように形成される血液細胞塊であることが明らかとなっている。
研究グループは、この血液細胞塊の形成と造血幹細胞の維持に転写因子Sox17が関与し、血液細胞塊の構成細胞にSox17を導入すると培養皿上で細胞塊を形成しつつ造血幹細胞を維持できること、また、これらの現象にはSox17がさまざまな遺伝子の発現を上昇させることが必要であることを報告してきたが、まだ未解明の部分が多く残されていた。
Sox17、造血能に寄与するRasip1の制御領域に直接結合し発現誘導
研究グループは、転写因子Sox17が発現を誘導する遺伝子を同定するため、転写因子Sox17が発現する細胞において緑色蛍光タンパク質であるGFP遺伝子が発現するマウス胎仔を用いて、血液細胞塊のSox17発現細胞および非発現細胞をそれぞれ回収して、遺伝子の発現を網羅的に解析した。
その結果、Sox17が発現している血液細胞塊構成細胞において発現が亢進している遺伝子としてRasip1を見出した。Rasip1は、血管内皮細胞において細胞の構造や接着に関与することが知られていたが、マウスの胎仔においても大動脈に認める血液細胞塊の細胞膜に発現し、それらの一部の細胞では核内にSox17が共に発現していた。さらに、Sox17がRasip1遺伝子の発現制御領域に直接結合して発現を誘導することを明らかにした。また、Sox17遺伝子を導入した血液細胞塊構成細胞に対してRasip1遺伝子の発現を実験的に減少させると、本来見られる造血能が低下した一方で、血液細胞塊構成細胞にRasip1遺伝子を導入して強制発現すると造血能の亢進が認められた。これらの結果から、Sox17により発現が亢進したRasip1が、造血幹細胞を含む血液細胞塊形成および造血能維持に寄与することがわかった。
造血幹細胞を生体外で増殖させ応用する技術展開も期待できる成果
血液細胞塊に生じた造血幹細胞は、その後、胎生が進むと肝臓に移り数を増やし、出生前には骨髄に到達し生涯を通じて維持される。転写因子Sox17は、骨髄の造血幹細胞では発現が認められず、胎仔の造血幹細胞においてのみ発現が認められるが、他のグループの研究より、自己複製能が低く分裂がほとんど止まっている骨髄の造血幹細胞にSox17を導入すると、胎仔期の造血幹細胞のように自己複製が盛んとなり、造血幹細胞が若返るのではないかと報告されている。研究グループが胎生期に初めて造血幹細胞が出現する時期に焦点を当てて見出したRasip1は、これら血管内皮細胞から生じる胎仔の造血幹細胞の特徴を決めている遺伝子の1つであると考えられる。「現在、造血幹細胞移植において移植する細胞が不足しており、本研究の成果が、骨髄の造血幹細胞を生体外で増殖させ応用する技術開発への展開が期待される」と、研究グループは述べている。
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