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多発性骨髄腫、分泌されるエクソソームが腫瘍免疫監視機構の破綻を誘導-京都府医大ほか

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2023年08月23日 AM11:47

腫瘍免疫監視機構の破綻、多発性骨髄腫の治療抵抗性や疾患の発症にも関与

京都府立医科大学は8月17日、多発性骨髄腫から分泌される腫瘍細胞由来エクソソーム(tumor-derived exosome:TEX)による骨髄由来抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell: )誘導のメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科血液内科学の水原健太郎病院助教、黒田純也教授、志村勇司准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「British Journal of Haematology」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

多発性骨髄腫は貧血、腎障害、溶骨性病変、高カルシウム血症など多彩な臨床症状を呈する難治性の造血器腫瘍である。近年、多くの新規薬剤が開発され治療成績は大きく改善したが、大部分の患者が再発を繰り返し、治癒を得ることが容易ではない難治疾患である。

一般に健康な状態の体内では、がんの発生や増殖を防ぐために、免疫担当細胞ががん細胞を攻撃・死滅させる腫瘍免疫監視機構が働いている。一方、過剰な免疫学的攻撃は健康な細胞にとって有害でもあるため、体内には免疫学的攻撃を抑制するさまざまな免疫抑制系の細胞も共存しており、腫瘍免疫監視機構は、免疫攻撃型の細胞群と免疫抑制型の細胞群の絶妙なバランスによって成立している。

多発性骨髄腫の治療抵抗性にはさまざまな要因が複合的に関与しているが、中でも近年注目が集まっているのが、先述した腫瘍免疫監視機構の破綻であり、そもそも疾患の発症にも関わっていることがわかってきた。すなわち、多発性骨髄腫では病状進行に伴ってMDSCや制御性T細胞といった免疫抑制系細胞などの免疫抑制型の細胞群の増加や、本来、免疫攻撃型の細胞であるT細胞の疲弊が顕在化することが明らかになってきた。そして、これらによって抗腫瘍免疫が減弱すると、体内において腫瘍細胞が増殖しやすくなるだけでなく、免疫化学療法、さらにはキメラ抗原受容体T細胞療法や二重特異性抗体などの細胞免疫療法の治療効果を減弱することも明らかになってきた。よって、多発性骨髄腫においてMDSCが誘導され、免疫抑制環境が形成され、腫瘍免疫監視機構が破綻するメカニズムを解明すること、さらにその制御戦略を開発することは極めて喫緊の研究課題である。

TEXに注目し解析、MDSC分化誘導能を有する2つのmiRNAを発見

研究グループは過去の研究において骨髄腫細胞が分泌するCCL5、MIF、MIP-1αといった液性因子がMDSC誘導に関与することを報告している。しかしながら、これらの液性因子による効果のみでは、MDSC誘導の機序についてすべてを明らかにすることはできていなかった。そこで今回はMDSC誘導に関与する因子としてmiRNAなどさまざまな分子を内包することで細胞間の情報伝達に重要な役割を果たしているエクソソームに注目して研究を行った。

はじめに骨髄腫細胞から回収したTEXのみを健常人由来の末梢血単核球に投与し、フローサイトメトリー解析を実施したところM-MDSCが誘導されることがわかった。次にMDSC誘導に関わるmiRNAの同定を試みた。TEX由来のRNAを用いたmiRNAマイクロアレイによりMDSC誘導に関わるmiRNAを20種類以上候補化し、それらをひとつずつ健常人由来の末梢血単核球へ導入しMDSCへと分化する効果の有無を検討したところ、miR-106a5pとmiR-146a-5pの2つのみがM-MDSCへの分化誘導能を有することが明らかになった。また、これら2つのmiRNAは、相補的に機能する一方、協調的ではないこともわかった。すなわち、TEXを介したMDSC誘導効果においては、どちらか一方のmiRNAが骨髄腫細胞から末梢血単核球に運び込まれさえすれば十分であることが示された。一方、これらのmiRNAは、先行研究においてMDSC誘導に関与することを見出していたCCL5やMIF、MIP-1αなどの液性因子と協調的にM-MDSC誘導を増強することも明らかになった。

miR-106a-5pとmiR-146a-5p、IFNや炎症反応などに関わる免疫抑制分子の発現を誘導

次にmiR-106a-5pとmiR-146a-5pがM-MDSCを誘導する分子生物学的メカニズムの解明に臨んだ。網羅的な遺伝子発現解析により、これら2つのmiRNAはIFN反応、炎症反応、TNF-αシグナル、IL-6シグナルに関連するPD-L1、CD38、IDO、CCL5、MYD88などの免疫抑制分子の発現を系統的に誘導することでM-MDSCを誘導する可能性が示唆された。特に腫瘍由来の慢性的なIFNシグナルは他のがん腫においても免疫抑制環境形成に寄与していることが報告されており、既報と一致する結果である。

TEX分泌やその下流の阻害により細胞免疫療法の効果向上につながる可能性

多発性骨髄腫に対する新規治療の開発は著しく、特にキメラ抗原受容体T細胞療法や二重特異性抗体などの細胞免疫療法への期待は非常に大きいものがある。しかしながら、腫瘍免疫監視機構の破綻は細胞免疫療法の治療効果を大きく損ねる可能性があり、そのメカニズム解明は重要な課題である。「研究の結果から、腫瘍細胞からのTEX分泌やその下流のIFN反応、炎症反応、IL-6シグナル、TNF-αシグナルを阻害することで免疫抑制細胞の誘導を抑制し、細胞免疫療法の効果向上や治療抵抗性の克服をもたらす可能性が示され、さらなる研究を継続中である」と、研究グループは述べている。

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