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アリピプラゾール、概日リズム睡眠障害への改善効果メカニズムを解明-筑波大

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2023年08月23日 AM10:44

統合失調症などの治療薬アリピプラゾール、睡眠相後退症候群にも有効だが作用機序は不明

筑波大学は8月22日、概日リズム睡眠障害の改善に有効とされるアリピプラゾールについて、生物リズムを司る間脳視床下部に存在する概日時計中枢に作用し、神経細胞間のコミュニケーションを弱めることにより、概日時計が外界の明暗サイクルに適応しやすいようにしていることがわかったと発表した。この研究は、同大医学医療系/国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の櫻井武教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Neuroscience」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

精神疾患の患者は、睡眠障害を合併することが多い。中でも、概日リズム睡眠障害の一種である睡眠相後退症候群を合併することが知られている。睡眠相後退症候群の患者は、極度の遅寝遅起きであるため、社会生活に支障をきたすことが多い。現在、有効な治療薬は少なく、メラトニン内服のみ多少の効果があるといわれているが、全ての患者に有効ではない。

近年、統合失調症や双極性障害などの治療薬として使用されているアリピプラゾールが、睡眠相後退症候群の症状に有効であることが報告された。双極性障害と睡眠障害を合併する患者に対して、双極性障害の治療の一環としてアリピプラゾールを投与したところ、睡眠時間の短縮と入眠・覚醒時間の前進が認められた。しかし、アリピプラゾールがどのような作用機序で、このような概日リズム睡眠障害の症状を改善するのかは全く不明だった。

、概日時計中枢に直接作用で睡眠覚醒リズムを明暗サイクルに適応の可能性を検証

睡眠覚醒リズムは、間脳視床下部視交叉上核(SCN)に存在する概日時計によって制御されている。SCNは、外界からの刺激がなくても約24時間周期の振動を示す自律振動能と同時に、外界の光シグナルに同調する光同調能を持っている。ヒトが時差ボケから徐々に回復するのは、この光同調能により新しい明暗サイクルに同調できるからだ。SCNの時計ニューロン間の連絡は、安定した周期振動を駆出するのに重要だが、この連絡を弱めると、外界の明暗サイクルに適応しやすくなる。そこで今回の研究では、アリピプラゾールが概日時計中枢に直接作用することで、睡眠覚醒リズムを外界の明暗サイクルに適応させている可能性を検証した。

アリピプラゾールがSCN時計ニューロンを脱同期、マウスが外界の光シグナルに反応

研究では、マウスの飲水にアリピプラゾールを混ぜ、12時間~12時間の明暗サイクルで飼育した後、サイクルを6時間前進させる時差ボケ実験を行い、新しい明暗サイクルへの同調性を解析。その結果、アリピプラゾールを投与したマウスは、対照マウスと比べて、より速く新しい明暗サイクルに同調した。続いて、概日リズムを可視化することが可能なPER2::LUCマウスからSCN切片を作製し、これにアリピプラゾールを投与。その結果、通常同期しているSCN細胞間の概日リズムが脱同期することを発見した。

これらのことから、アリピプラゾールはSCNの時計ニューロンを脱同期させることにより、マウスが外界の光シグナルに反応しやすいようにしていると考えられた。すなわち、睡眠相後退症候群を示す患者へのアリピプラゾール投与により遅寝遅起きが改善されるのは、患者の概日リズムの外界の明暗サイクルへの同調が促進され、睡眠覚醒リズムが正常に戻るためだと考えられる。

アリピプラゾールがSCN発現の5-HT1ARに作用、cAMP上昇

アリピプラゾールは主要な神経伝達物質であるドーパミンやセロトニンなどのさまざまな受容体に作用する。そのほとんどはGタンパク質共役型受容体であり、そのうちの一部は環状アデノシン一リン酸(cAMP)を経由したシグナル伝達経路に関わるものだ。これらの受容体のうち、セロトニン1A受容体(5-HT1AR)はSCNに発現しており、光同調に関わっていることが知られている。

今回の研究では、マウスSCNの切片において、アリピプラゾールの投与によりcAMP濃度が上昇することを見出した。しかし、アリピプラゾールの投与前に5-HT1AR阻害剤を投与しておくと、cAMPの上昇が認められなくなることも判明。つまり、アリピプラゾールは、SCNに発現している5-HT1ARに作用し、cAMPを上昇させていると考えられる。今回の研究により、これまで不明だったアリピプラゾールの概日リズム調節の作用機序の一端が、分子・細胞レベルで明らかになったとしている。

概日リズム睡眠障害治療薬の適応に期待

アリピプラゾールは従来、統合失調症や双極性障害などの治療に用いられており、加えて概日リズム睡眠障害の症状改善にも効果があることがわかっていた。同研究により、アリピプラゾールは概日時計中枢に作用して外界の明暗サイクルへの適応を促進していることが明らかになったことから、今後、概日リズム睡眠障害の治療薬としての適応が期待される、と研究グループは述べている。

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