健康診断受診者の胸部レントゲン画像から年齢推定するAIモデル開発を目指して
大阪公立大学は8月17日、胸部レントゲン画像から体内年齢を推定するAIモデルを開発し、推定年齢から実際の年齢を引いた年齢差とさまざまな疾患の関係を実証したと発表した。この研究は、同大大学院 医学研究科放射線診断学・IVR学の光山容仁大学院生(博士課程2年)、植田大樹研究員、三木幸雄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Lancet Healthy Longevity」にオンライン掲載されている。
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加齢による変化は複雑で、同じ年齢でも日常生活に介助が必要な人もいれば、自立した生活を送ることができる人もいる。このような生物学的な老化を理解するため、さまざまな加齢のバイオマーカーが提唱されている。その中でも、胸部レントゲン画像は最も一般的な検査の一つだ。入院時やさまざまな疾患の検査だけでなく、健康診断でも広く用いられている。これまで胸部レントゲン画像を用いてAIで年齢を推定する報告はあるが、複数施設から収集した健常者の胸部レントゲン画像を基にしたAIモデルの開発は行われていなかった。
そこで研究グループは、健康診断受診者から既往歴のある患者を除外した胸部レントゲン画像をもとに、年齢推定するAIモデルを開発できれば、加齢の新たなバイオマーカーになるのではないかと考えた。
6万枚以上の胸部レントゲン画像と年齢を学習させ、高精度なAIモデルを開発
研究グループは、AIのディープラーニングを用いて、健康診断で撮影された胸部レントゲン画像から年齢を推定するモデルを開発した。AIモデルの開発と検証を行うため、2008~2021年までの間に3施設から合計3万6,051人、6万7,099枚(同一患者データ含む)の健康診断の胸部レントゲン画像を収集。収集したデータは、入力に胸部レントゲン画像を、出力に年齢を設定し、AIモデルには両データ間の特徴を学習させた。その結果、実際の年齢と推定年齢との相関係数は、0.95を示した。相関係数は通常0.9で非常に強い相関とされているので、同モデルは高い精度を示したと言える。
AI推定の年齢と実年齢の差が、慢性疾患の罹患と正に相関
さらに、このAIモデルのバイオマーカーとしての有用性を検証するため、疾患と年齢差の関係を分析した。検証には2018~2021年までの間に別の2施設から収集した疾患のある患者、合計3万4,197人、3万4,197枚の胸部レントゲン画像を利用した。その結果、推定年齢が実年齢より高いほど、高血圧や高尿酸血症、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎など、慢性疾患の罹患と正の相関関係があることが判明した。一方、肺炎や虫垂炎、尿路感染症などの急性疾患では関連性は示されなかったという。
慢性疾患の重症化推定、余命予測、悪性腫瘍予後の層別化などへの応用目指す
生物学的年齢は医学の中で最も重要な因子の一つだが、今回の研究により、さまざまな慢性疾患と年齢差の関係性が示された。これは、胸部レントゲン画像に表現される年齢が、生物学的年齢よりも健康情報を正確に反映する可能性を示唆している。
「本研究を発展させ、慢性疾患の重症化推定、余命の予測、悪性腫瘍の予後の層別化、手術合併症の予測などへ応用することを目指して研究を進めていく」と、研究グループは述べている。
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