高齢者の腎臓、慢性腎臓病患者に見られる三次リンパ組織
京都大学は8月8日、腎臓の三次リンパ組織(異所性リンパ組織)が、周囲の近位尿細管上皮細胞を直接障害すること、障害された近位尿細管や内部の線維芽細胞といった腎実質細胞と血球の相互作用により、三次リンパ組織が拡大することを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科腎臓内科学の柳田素子教授(兼:高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)主任研究者)、好川貴久 同特定病院助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Society of Nephrology」に掲載されている。
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慢性腎臓病は何らかの原因で腎機能が低下する病気であり、世界人口の約10%が罹患している重要な健康問題である。特に高齢者は慢性腎臓病に罹患している人が多く、しかも悪化しやすいにもかかわらず、その原因は不明だった。これまでに研究グループは、高齢者の腎臓で三次リンパ組織というリンパ節に似た血球の集まりからなる病変が形成されると、腎障害が改善せず、慢性腎臓病に陥ることを見出し、三次リンパ組織が腎臓にとって有害であることを報告してきた。三次リンパ組織は、さまざまな慢性腎臓病患者の腎臓に形成されていることもわかり、近年注目を集めている。しかし、なぜ三次リンパ組織が腎臓を障害するのかというメカニズムは不明だった。
三次リンパ組織を構成する血球と腎実質細胞をシングルセル遺伝子発現解析
研究グループは、三次リンパ組織を構成する血球と腎実質細胞(上皮細胞、線維芽細胞)の相互作用を調べることで、慢性腎臓病の新たな治療開発に結び付けられる可能性があると考えた。研究では具体的に、三次リンパ組織が形成された高齢マウスの腎臓を用いてシングルセル遺伝子発現解析を行った。シングルセル遺伝子発現解析は、1細胞レベルの遺伝子発現解析を可能とし、さまざまな細胞集団の性質や細胞間相互作用の解析に非常に有用なツールとして、近年急速に発展してきた。
三次リンパ組織内部に過剰な炎症性サイトカイン、周囲の細胞に直接作用
解析結果について組織染色や細胞実験を用いて検証したところ、三次リンパ組織内部の血球、特にリンパ球が腫瘍壊死因子α(TNFα)、インターフェロンgamma(IFN gamma)という炎症性サイトカインを過剰に産生し、それが周囲の近位尿細管上皮細胞に直接作用して障害を引き起こし、修復できなくなることがわかった。加えて、この障害近位尿細管や三次リンパ組織内部の線維芽細胞がサイトカインの影響で、炎症性の性質を帯びるため、さらに血球を呼び集めることで、三次リンパ組織を拡大し、炎症を悪化させる、という炎症増幅機構を形成することを見出した。
さらに、ヒトの移植腎組織に存在する三次リンパ組織でも、周囲を炎症性障害近位尿細管が取り囲み、内部には炎症性線維芽細胞が存在することが確認され、マウスと類似した細胞群と細胞間相互作用が存在することが示唆された。
細胞間相互作用を標的とした慢性腎臓病の治療開発に期待
研究の結果、腎臓の三次リンパ組織が周囲の近位尿細管上皮細胞を直接障害すること、腎実質細胞(近位尿細管上皮細胞、線維芽細胞)に炎症性質を帯びさせることで、血球との相互作用を介して、さらに三次リンパ組織が拡大し、炎症を増幅させることがわかった。腎三次リンパ組織による腎障害メカニズムが明らかになることで、その原因となる細胞間相互作用を標的とした慢性腎臓病の新たな治療開発につながる可能性がある。
研究グループは今後、三次リンパ組織の腎障害メカニズムに関わる経路を標的とした、新たな治療法の開発を目指すという。「今回取得した遺伝子発現データは膨大であり、今後、追加解析する余地も残されている。さらに、高齢マウスの障害腎を時系列的に解析し、研究データと統合することで、三次リンパ組織の構成細胞種のさらなる細分類や形成メカニズムについての新たな知見が得られることが期待される」、と研究グループは述べている。