禁煙補助薬「バレニクリン」で認知記憶力は増大するのか?
金沢大学は8月8日、禁煙補助薬「バレニクリン」によって認知記憶力がアップする脳内メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医薬保健学総合研究科創薬科学専攻博士後期課程2年の江崎博仁氏、泉翔馬氏、医薬保健学域薬学類6年の桂あやの氏、および医薬保健研究域薬学系の出山諭司准教授、金田勝幸教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Neuropharmacology」オンライン版に掲載されている。
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日本での65歳以上の認知症患者数は2020年に約602万人となり、2025年には約675万人におよぶと予測されている(平成29年度版高齢社会白書)。しかし、認知症に対して十分な効果を示す治療薬があるとは言えない状況であり、また、アルツハイマー型認知症に対する新規治療薬は高価であることから、医療費を圧迫することが社会的・財政的にも懸念されている。したがって、既存の承認薬物の中から認知症治療につながる薬を見つけることは患者のみならず、社会的にも重要と考えられる。
研究グループはこれまでに、タバコの成分であるニコチンがマウスの認知記憶力を増大させることを報告してきた。しかし、依存性のあるニコチンそのものを治療薬とすることには問題がある。そこで今回、禁煙補助薬として認可されており、かつ、ニコチンと同様にニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に結合することが知られるバレニクリンに着目し、この薬物が認知記憶力を増大させる可能性を検証した。
バレニクリン投与でマウスの物体認知記憶力増大
研究グループは、バレニクリンの認知記憶力に対する影響をマウスでの新奇物体認識試験で調べた。まず、マウスにトレーニングで2つの同じ物体を覚えさせ、その24時間後に一方の物体を新しい物体と入れ替えテストした。トレーニング時の物体を覚えていればテスト時には新たな物体への探索時間が増えることから、記憶がどれだけ強く保持されているかを計測できる。
テストの結果、末梢投与と認知記憶に関わるとされる内側前頭前野(mPFC)への局所投与のいずれによっても、認知記憶を増大させることを見出した。
認知記憶増大にmPFC神経細胞への興奮性神経伝達増強が関与
また、この作用はnAChRのうち、α7型の刺激と、それに続くGタンパク質を介した細胞内シグナル活性化によることが判明。さらに、マウスの脳スライス標本でのホールセルパッチクランプ記録法を用いた解析から、最終的にはmPFC神経細胞への興奮性神経伝達の増強が認知記憶増大に関与していることが明らかになった。
「すでに臨床適用が承認されているバレニクリンは安全性が確認されているため、将来的に、バレニクリンを低コストの認知症治療薬として応用できる可能性が期待される」と、研究グループは述べている。
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