予後不良の小細胞肺がん、悪性化に必須の代謝システムは明らかでなかった
九州大学は8月7日、小細胞肺がんの悪性化に必須の代謝メカニズムを標的とした効果的治療法を樹立したと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授、小玉学助教、同大大学院消化器・総合外科の吉住朋晴氏、豊川剛二氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載されている。
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小細胞肺がんは、5年生存率が7%とされている。全てのがん種の中でも最も予後が不良とされ、非常に悪性度が高い腫瘍だ。約40年前に確立された既存の化学療法の効能を超越する治療法が見つからず、小細胞肺がんに対する新規的かつ効果的な治療法は確立されていない。このような背景から、小細胞肺がん患者の予後延伸を可能とする新規治療法の確立が待望されている。
近年の報告から、小細胞肺がんは、その高速な増殖能と悪性性を維持するために代謝依存性を高めていることが明らかとなってきた。しかし、細胞代謝機構は1,200種以上もの代謝酵素による複雑な化学反応系から成り立つ分子システムであるため、小細胞肺がんの悪性化に必須の代謝システムは明らかになっていなかった。
小細胞肺がん、代謝酵素群の発現上昇が顕著に生じる
そこで、今回研究グループは、ヒト小細胞がんに発現する全代謝酵素を網羅的に定量可能な次世代プロテオミクス技術であるiMPAQTシステムを駆使し、ヒト小細胞がん悪性化における代謝変化の解明を目指した。
小細胞肺がんの代謝表現型を明らかにするため、小細胞肺がん患者12人、肺扁平上皮がん患者12人、肺腺がん患者12人から腫瘍検体を獲得し、タンパク質レベルでの代謝酵素発現量比較解析を実施。その結果、小細胞肺がんでは、DNAとRNAのもととなる核酸の合成を促す代謝酵素群の発現上昇が最も顕著に生じていることを発見した。
核酸代謝酵素HPRT1が最も発現上昇、悪性化に寄与
核酸の合成にはグルタミンを利用する新規核酸合成経路と、核酸の分解産物であるヒポキサンチンを利用して核酸を再合成するサルベージ経路がある。小細胞肺がんでは、核酸合成酵素群の中でもHPRT1の発現上昇が最も顕著に生じていることが明らかになった。続いて、HPRT1の発現量から小細胞肺がん患者の生存解析を実施。その結果、HPRT1の発現量増加に伴い、患者死亡リスクが上昇することがわかった。
小細胞肺がんで過剰に発現上昇しているHPRT1の機能を解析するため、HPRT1遺伝子をノックアウトした小細胞肺がん株を樹立。その結果、HPRT1遺伝子をノックアウトした小細胞肺がん株ではコントロール細胞と比較し、がん細胞の特徴的な増殖表現型であるヌードマウスでの造腫瘍形成能が顕著に抑制されていることが明らかになった。
6-MP+MTX+MSO併用、腫瘍抑制効果を飛躍的に増強
最後に、HPRT1阻害剤6-MPを患者由来腫瘍(PDX:Patient derived xenograft)を生着させたヌードマウスへ投与したところ、PDXの腫瘍形成能を抑制した。6-MPに加え、DNAとRNAの新規合成経路を阻害する抗がん剤MTXと、新規核酸合成に必須の栄養基質であるグルタミン合成阻害剤であるMSOを併用したところ、腫瘍抑制効果が飛躍的に増強。宿主の生存期間を延伸することを突き止めたという。
小細胞肺がんの効率的な核酸合成阻害、治療効果に期待
今回の研究は、予後不良な小細胞肺がんの効果的治療の創出を目的として実施された。がん細胞の増殖はDNA、RNA合成速度が律速となっている。そのため、特に、宿主体内での増殖が早く悪性性が高い小細胞肺がんの効率的な核酸合成阻害は、実臨床で既存療法を超える治療効果をもたらす可能性が期待される、と研究グループは述べている。
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・九州大学 プレスリリース