アルツハイマー病関連遺伝子の保有者では認知機能に先立ち嗅覚が低下か
アルツハイマー病に関連するApoE遺伝子のε4アレル(ApoE ε4)を保有する人は、記憶や思考に問題が生じるはるか前に嗅覚が低下している可能性のあることが、米シカゴ大学のMatthew GoodSmith氏らによる研究で示唆された。GoodSmith氏は、「においを感知する能力の検査が、後年になって認知機能に生じる問題を予測する上で有用な可能性がある」と述べている。研究の詳細は、「Neurology」に7月26日掲載された。
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ApoEはアミロイドβの蓄積や凝集に関わるタンパク質である。ApoEには、3つの主要なアイソフォーム(ApoE2、ApoE3、ApoE4)が存在し、それぞれ、ε2、ε3、ε4の3種類のアレルによりコードされている。ε4アレルを保有する人ではアルツハイマー病発症のリスクが大幅に上昇することが知られている。
GoodSmith氏らは今回、米国の在宅高齢者を対象にした調査研究であるNational Social Life, Health and Aging Project(NSHAP)のデータを用いて、ApoE ε4と嗅覚の感度、嗅覚の同定能力、および認知機能との関連を調査した。
対象者の認知機能と嗅覚の感度については2010年と2015年に、嗅覚の同定能力については2005年、2010年、および2015年に評価されていた。また、2010年に採取されたDNAサンプルから、遺伝子型の判定も行われていた。865人が嗅覚の感度、1,156人が嗅覚の同定能力、864人が認知機能に関する評価を受けていた。対象者をApoE ε4の保有者と非保有者で二分し、さらに年齢層により層別化して解析を行った。
その結果、ApoE ε4保有者では、嗅覚の感度が65〜69歳ですでに顕著に低下していたが、その後の経時的な低下速度は非保有者の方が速いことが明らかになった。これに対し、ApoE ε4保有者で嗅覚の同定能力に明らかな低下が認められたのは75〜79歳になってからだったが、その後の低下速度は、非保有者よりも速かった。さらに、研究開始時点では、ApoE ε4保有者と非保有者の認知機能は同等であったが、予想された通り、認知機能の経時的な低下速度は、ApoE ε4保有者の方が速かった。
GoodSmith氏は、「これらの関連の根底にあるメカニズムを明らかにすることは、神経変性における嗅覚の役割を理解する上で役立つだろう」と話す。同氏はさらに、「嗅覚がどの程度低下すれば将来の認知機能の低下が予測できるのかを明らかにするには、さらなる研究でこれらの結果を検証する必要がある。しかし、今回得られた結果は、特に認知症の早期発見を目的とした研究においては、有望なものとなるだろう」と述べている。
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