多彩な生物活性を示す「超硫黄」、新型コロナに関する研究開発進む
東北大学は8月4日、多彩な生理機能を持つミラクル分子である「超硫黄」が、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス感染症のみならず、肺気腫・COPDや特発性肺線維症などの難治性肺疾患の制御因子・予防治療薬となる可能性があることを明らかにし、さらに、呼気を試料とする「呼気オミックス」による新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス感染症の診断法の開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科環境医学分野の赤池孝章教授、熊本大学株式会社島津製作所らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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研究グループはこれまで、生体内に超硫黄分子を発見し、その多様な生理機能を探索・解明してきた。超硫黄は、ポリスルフィド構造を分子内に有する硫黄代謝物の総称で、カテネーション・ポリスルフィド構造により、求核性と親電子性を併せ持ち、多彩な生物活性を示すことがわかっている。また、2020年からの新型コロナウイルスのパンデミックを契機に、ウイルスや超硫黄分子の代謝経路として呼気エアロゾルを用いた呼気オミックス分析の技術開発に取り組んできた。
新型コロナ/インフルに対し、強力な感染防御能
研究グループは今回、ハムスターやマウスの新型コロナウイルスとインフルエンザウイルス感染モデルおよびマウスのCOPD・肺気腫・肺線維症モデルを用いて、超硫黄分子が新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス感染症に対して強力な感染防御能を有することを明らかにした。
COPDなど難治性炎症性肺疾患の予防・治療効果も判明
また、難治性炎症性肺疾患として知られるCOPD・肺気腫・特発性肺線維症などに対しても超硫黄分子は予防・治療効果を発揮することを明らかにした。具体的には、超硫黄分子は、抗ウイルス効果を発揮するだけでなく、炎症反応と酸化ストレスを強力に抑制し病態を制御することで、気道と肺に保護的役割を果たすことがわかった。
呼気オミックスによるウイルス診断法を開発
さらに、島津製作所との共同研究により、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス感染症の診断法の開発、および、超硫黄代謝解析による多くの疾病の診断・未病予防・治療に資する無侵襲生体情報解析法を開発した。呼気中に含まれる超硫黄分子(ミトコンドリア超硫黄代謝)などの代謝物やウイルスを無侵襲・非接触的にモニタリングすることで、日常的な健康管理のみならず感染症を含めたさまざまな病気をコントロールする未来型呼気医療の確立が期待される。
感染症や肺疾患に加え、酸化ストレスが関わる疾患への展開に期待
超硫黄分子にはエネルギー代謝改善や強力な抗酸化活性があることから、この成果を基盤にした「超硫黄ミラクル創薬」の社会実証が進むことが期待される。さらに、 感染症や肺疾患のみならず、酸化ストレスが関わる心血管疾患、生活習慣病、動脈硬化、糖尿病などの代謝性疾患、アルツハイマー病などの神経変性疾患、がんなどの難治性疾患や加齢寿命制御による長寿医療への展開も考えられる。
「研究成果により、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス感染症、および、がんを含めた全ての疾病の診断のみならず、呼気オミックスを活用した在宅での健康管理・健康診断など、遠隔医療による未病・予防と長寿に資する未来型呼気医療の開発の道がひらかれた」と、研究グループは述べている。
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