産前産後のうつ、予防・治療的ケアが困難
京都大学は8月3日、妊娠中や産後の女性が子育て中に生じる不安や疑問を、自身のスマートフォンを用いて産婦人科医・小児科医・助産師に相談できる、オンライン健康医療相談サービスを無料で利用できる環境にあった女性は、そうでない女性に比べて産後うつのリスクが約3分の2程度に抑えられたことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学研究科の近藤尚己教授、東京大学博士課程学生の荒川裕貴氏(京都大学特別研究学生)らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC medicine」にオンライン掲載されている。
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産後うつは、女性の長期的健康や子どもの発達に悪影響を与える公衆衛生上の重要課題であり、これまでさまざまな対面での予防介入が研究・実践されてきたが、いまだ産前産後にうつに苦しむ人は少なくない。この背景として妊娠中や産後の女性は、自身の体調や子どもの世話のために移動が困難、時間的な制約で必要なときにサポートを得られない、相談することへの心理的ハードルを感じるなど、予防・治療的ケアに対して物理的・心理的なアクセス障壁が存在することが指摘されてきた。オンラインで医師や助産師に相談できる環境を提供することは、ヘルスケアへのアクセス障壁を取り除き、妊娠中や産後に生じた不安や疑問を解消することで、産後うつの予防につながる可能性がある。
妊婦対象オンライン無料健康医療相談、利用可能で産後うつ高リスク者の割合低下
研究グループは、横浜市と株式会社キッズパブリックと連携し、オンライン健康医療相談サービスを提供することが、産後うつリスクの低下につながるかを検証した。2020年9月~2021年2月の間に、横浜市在住のすべての妊婦を対象に研究への参加を依頼し、同意を得られた人に対して、オンライン健康医療相談サービスを無料で利用できるグループと、利用できないグループにランダムに割り当てた。サービスを利用できるグループの女性は、妊娠中から産後まで、産婦人科医・小児科医・助産師に、相談したいタイミングで相談したいことを自身のスマートフォンから相談できた。
研究の結果、産後3か月時点の産後うつ高リスク者の割合はサービスを利用できるグループが15.2%(47人/310人)に対し、利用できないグループは22.8%(75人/329人)であり、利用できるグループの人が産後うつ高リスク者の割合が約3分の2であったことが明らかになった(相対リスク0.67)。この結果は、研究参加者の収入や学歴などの社会経済背景によらず認められた。また、オンライン健康医療相談サービスを利用できるグループは、利用できないグループに比べて自己効力感が高く、孤独感が低く、医療へのアクセス障壁を感じる程度が小さいことがわかった。
ケアへの物理的・心理的なアクセス障壁を取り除くことが重要
今回の研究結果は、行政が企業と協力してオンライン健康医療相談サービスを提供することで、その自治体に住む女性の産後うつリスクを減らすことができる可能性を示している。これまで未解決だった予防的ヘルスケアへの物理的・心理的なアクセス障壁を取り除くことが、産前産後の女性のメンタルヘルスの悪化予防に重要であることが示唆された。「テクノロジーを用いたオンライン健康医療相談はその手段として有望であり、このエビデンスをもとにした取り組みが広く社会に実装されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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