カルシニューリン阻害薬は急性GVHDを抑制するが、慢性GVHD発症予防効果は限定的
北海道大学は8月4日、同種造血幹細胞移植後に標準的に用いられるGVHD(移植片対宿主病)予防薬カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン)の投与が、ドナーT細胞の疲弊を抑制し、活性の高い一過性(transitory)疲弊T細胞を誘導することで、逆に慢性GVHDの発症につながることを、マウスモデルにおけるドナーT細胞の網羅的遺伝子発現解析を利用して発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の豊嶋崇徳教授、橋本大吾准教授ら、同大学遺伝子病制御研究所の村上正晃教授の研究グループによるもの。研究成果は、「Blood」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
同種造血細胞移植は、白血病などの血液悪性腫瘍の治癒を目指せる根治的治療法だが、その有効性と安全性は改良の余地がある。中でも、慢性GVHDは重要な合併症の1つ。移植後約半数の症例が慢性GVHDを発症し、時に致死的な経過を辿ることが報告されている。GVHD発症の原因として、移植ドナー由来の免疫細胞の一つであるT細胞の活性化が知られている。T細胞の機能を抑えるカルシニューリン阻害薬(シクロスポリン等)がGVHD予防薬として標準的に用いられている。しかし、カルシニューリン阻害薬は急性GVHDを抑制するものの、慢性GVHD発症の予防効果は限定的で、長年その原因究明と対策が移植における最重要課題とされてきた。
カルシニューリン阻害薬使用後の慢性GVHD発症メカニズムを検討、マウスモデルで
研究グループは、先行研究により、マウスの同種骨髄移植モデルでカルシニューリン阻害薬を投与しないと、慢性的な抗原刺激によってドナーT細胞が疲弊状態に陥り、免疫寛容が誘導されることを報告している。今回の研究では、臨床の移植で頻用されるカルシニューリン阻害薬が、ドナーT細胞の疲弊にどのような影響を及ぼすかについて、マウスモデルを用いて検討し、カルシニューリン阻害薬使用後の慢性GVHD発症のメカニズムを検討した。
研究では、マウスに同種骨髄移植を行い、網羅的遺伝子発現解析であるシングルセルRNAシークエンス法を用いてドナーT細胞を解析。カルシニューリン阻害薬によるドナーT細胞の遺伝子発現の変化を、シングルセルレベルで観察した。また、カルシニューリン阻害薬投与によって誘導されたドナーT細胞の機能解析を行い、慢性GVHD発症や免疫チェックポイント阻害薬による抗白血病効果における役割を検討した。
カルシニューリン阻害薬に誘導された一過性疲弊T細胞、慢性GVHD発症を促進
カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン)を投与されたレシピエントマウスでは、特殊な疲弊細胞(一過性疲弊T細胞)が増加していた。この一過性疲弊T細胞は、細胞傷害性分子などを高発現しており、高い抗腫瘍活性を有することが報告されている。移植後にレシピエントマウスから採取した一過性疲弊T細胞を別のレシピエントマウスに再移植すると、慢性GVHDを発症し、それ以外のT細胞では発症しなかった。この結果により、カルシニューリン阻害薬で慢性GVHDが効果的に予防できない原因は、カルシニューリン阻害薬によって誘導された一過性疲弊T細胞が慢性GVHD発症を促進するためであることが明らかになった。
一方で一過性疲弊T細胞は、免疫チェックポイント阻害薬GVL効果増強に寄与
さらに、慢性GVHDの原因となる一過性疲弊T細胞は免疫チェックポイント阻害薬によって著明に増殖し、強い抗白血病効果を発揮することが判明。カルシニューリン阻害薬を投与していないレシピエントマウスでは、免疫チェックポイント阻害薬を投与しても、全てのレシピエントマウスが白血病によって腫瘍死した。それに対し、カルシニューリン阻害薬を投与した後に免疫チェックポイント阻害薬を投与したマウスでは、ドナーT細胞の増殖能および殺細胞能が著しく向上し、白血病細胞が根絶され長期生存が得られたという。このように、一過性疲弊T細胞は慢性GVHDの原因となる一方で、免疫チェックポイント阻害薬によって移植片対白血病(GVL)効果の増強にも寄与することが明らかになった。
カルシニューリン阻害薬無し移植法開発の重要性を示唆
今回の研究によって、全世界で移植時の標準的なGVHD予防薬として用いられているカルシニューリン阻害薬が慢性GVHDの発症を促進することが明らかになった。これにより、カルシニューリン阻害薬を使用しないような移植法の開発の重要性が示唆された。また、一過性疲弊T細胞は、慢性GVHDの発症予測のみならず、免疫チェックポイント阻害薬の治療反応性を予測するバイオマーカーとして有用である可能性があり、臨床への応用が期待される、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・北海道大学 プレスリリース