全身炎症を亢進させ動脈硬化リスクとなる歯周病は、「MIA症候群」に関与するのか?
東京医科歯科大学は8月3日、人工透析を受けている末期腎不全の患者において、歯周炎が「Malnutrition-inflammation-atherosclerosis(MIA)症候群」と呼ばれる、生命予後の大きなリスクファクターとなる病態に関与していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科 歯周病分野の三上理沙子助教、水谷幸嗣講師、岩田隆紀教授、順天堂大学 腎臓内科学講座の合田朋仁准教授と、埼友草加病院、神奈川歯科大学との共同研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
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人工透析を受けている人では、低栄養状態、炎症状態の亢進が生命予後の大きなリスクになることが知られている。低栄養状態、炎症状態の両者を呈している人では動脈硬化性病変を高頻度に発症することから、この病態はMIA症候群と呼ばれている。
一方で、歯周病は成人の8割が罹患していると言われる疾患で、抜歯の最大の原因となる。人工透析患者では健常者と比較して歯周病が重症化して残存歯数も少ないため、栄養摂取の効率が下がり低栄養につながっている可能性が考えられる。さらに、歯周病は歯肉の炎症を引き起こすだけでなく、全身の炎症状態も亢進させ、動脈硬化性病変のリスクとなることが報告されている。これらのことから研究グループは、人工透析患者において歯周病がMIA症候群に関与するのではないかとの仮説を立て、検証を行った。
特に重度歯周炎が人工透析患者の低栄養状態と炎症状態に関与
研究は、人工透析クリニックに通院する254人(男性167人、女性87人、平均年齢67.4±12.1歳)を対象に行った。MIA症候群の3要素(低栄養、炎症、動脈硬化性病変)はそれぞれGeriatric Nutritional Risk Index(GNRI)、血清中のC反応性タンパク、血管イベントの既往により定義し、該当する要素の数(0-3)を算出。188人(74.0%)が少なくとも1つ以上のMIA症候群の要素に該当した。
共変量で調整した結果、重度歯周炎はMIA症候群の要素数の増加と統計学的に有意な相関(調整オッズ比:2.64、95%CI:1.44-4.84、p=0.002)があることがわかった。さらに、重度歯周炎はMIA症候群の3要素の中でも、炎症と低栄養と強く関与していることがわかり、それぞれの調整オッズ比は2.47(95%CI:1.16-5.28、p=0.020)、3.46(95%CI:1.70-7.05、p=0.001)だった。
歯周炎の治療がMIA症候群治療の一助となる可能性
MIA症候群は生命予後のリスクファクターでありながら、その原因は多岐に渡るため、抜本的な治療方法は確立されていない。MIA症候群における低栄養は、栄養摂取量の低下だけではなく慢性的な炎症状態によるタンパク質の分解促進や合成抑制などが大きな原因となる。そのため、炎症の除去を目的として透析条件の再設定や炎症の原因になっている疾患の治療などが行われるが、併存疾患の存在などから炎症の原因疾患の改善が難しいことも多くある。
「本研究では、重度歯周炎とMIA症候群の関連が示された。今回の結果は、歯周炎を治療することがMIA症候群治療の一助となる可能性が示唆され、透析患者の口腔ケアや歯科受診を促す一つの論拠になると考えられる」と、研究グループは述べている。
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