抗がん剤や放射線治療に対する抵抗性、メカニズムは未解明
北海道大学は8月3日、がん細胞が分泌するインターロイキン-34(IL-34)が、腫瘍内の免疫環境を変えることで、がん細胞に直接作用する治療法の効果が大きく左右されることを解明したと発表した。この研究は、同大遺伝子病制御研究所の韓ナヌミ助教(研究当時)、清野研一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Oncoimmunology」にオンライン掲載されている。
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がんに対する治療法としては、古典的には手術療法(切除)、抗がん剤、放射線治療があり、長らく標準治療と呼ばれていた。一方、近年、がん患者の免疫機能を高めることで腫瘍の退縮を目指す免疫治療も実用化され、標準的な治療の一つになっている。これらがんの治療法の中でも、抗がん剤並びに放射線治療はがん細胞そのものに作用し、がん細胞を殺すことで抗腫瘍効果を発揮すると考えられてきた。しかし、がん細胞に直接作用するこれらの治療においてもその効果には個人差があり、また同じ治療を続けるとだんだん効かなくなってくるという、抵抗性の問題がある。この抵抗性のメカニズム解明には多くの研究者が取り組んでいるが、いまだ完全に明らかにされたとは言えない。
腫瘍環境の免疫抑制に寄与するIL-34に着目
そこで研究グループは、腫瘍の中の免疫状態に着目した。腫瘍環境の免疫抑制に寄与する因子として、IL-34というタンパク質が報告されている。研究グループはこれまでに、さまざまながん種の腫瘍組織においてIL-34の発現を確認しており、がん細胞から産生されるIL-34が、がんの悪性度に関わることや、がんの進行を促進することを明らかにしてきた。また、免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる新しい免疫治療において、IL-34が存在するとその効果が減弱すること、逆にIL-34の働きを阻害すると免疫治療の効果が増強されることも明らかにした。研究グループは、がん細胞に直接作用する抗がん剤や放射線治療においてもIL-34がその効果を左右し、治療抵抗性に関与するのかどうかを検討した。
IL-34発現腫瘍、免疫抑制性マクロファージ増え治療効果は著しく減弱
今回の研究ではまず、IL-34を発現するマウス乳がん細胞株である4T1細胞および大腸がん細胞株CT26を用いて、抗がん剤(オキサリプラチン)投与あるいは放射線照射(計12グレイ)の効果に対するIL-34の役割について調べた。IL-34を欠損させたがん細胞を樹立し、同細胞あるいは元のIL-34を発現する細胞をそれぞれ別の実験用マウスの皮下に注入することで、担がんマウスを作製した。その後、上記の治療を施し、腫瘍の大きさを測定した。また、IL-34を欠損したがん細胞を用いた実験で、主要な免疫細胞であるT細胞を欠損するマウス、もしくは阻害する抗体を用い、同細胞の重要性を検討した。さらに、腫瘍内に浸潤している免疫細胞の種類や量、発現分子を解析することで、がん細胞から産生されるIL-34が腫瘍環境にどのような影響を与えるのかを検証した。
IL-34を発現する腫瘍に対しオキサリプラチン投与もしくは放射線治療を行ったところ、IL-34を欠損した腫瘍に対する効果に比べ、治療効果は著しく減弱することが観察された。T細胞の重要性を検討した実験において、これらの治療法はT細胞が十分に存在し機能する状況がないと、(直接がん細胞に作用する治療法であるにもかかわらず)治療効果が著しく低下してしまうことがわかった。また、腫瘍に浸潤している免疫細胞の種類や量を比較したところ、IL-34産生腫瘍ではIL-34欠損腫瘍と比較して免疫抑制性のマクロファージが増加していることがわかった。同時に、IL-34産生腫瘍ではT細胞の浸潤が少ないこと、T細胞の細胞障害性分子であるグランザイムや腫瘍壊死因子(TNF)の発現量が抑えられていることも判明した。
IL-34標的により、化学療法や放射線治療抵抗性を解除できる可能性を示唆
以上の結果は、従来がん細胞そのものを殺すことでその作用を発揮すると考えられていた抗がん剤や放射線治療においても、腫瘍環境における免疫の状態は極めて重要であることを示している。その状態を司る一つの重要な因子として、今回研究グループはIL-34を特定した。研究の結果から、IL-34を標的とした治療により腫瘍内の免疫抑制と化学療法もしくは放射線治療抵抗性を解除できる可能性が示された。
「がんに対する免疫治療は現在のところ各種免疫細胞の機能を高める、というものがほとんどであるが、本研究の成果により、『がん局所におけるIL-34の発現診断→IL-34阻害薬の投与→免疫環境の改善』という新しいがん免疫治療のコンセプトが生まれる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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・北海道大学 プレスリリース