医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > AML予後不良に関わるSETBP1、生理的な発現量での役割は非常に限定的-FBRIほか

AML予後不良に関わるSETBP1、生理的な発現量での役割は非常に限定的-FBRIほか

読了時間:約 3分39秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年08月01日 AM11:35

過剰発現SETBP1は白血病病態に重要な役割、生理的な発現レベルでの役割は?

(FBRI)は7月27日、(AML)において高発現が予後不良因子となるSETBP1遺伝子について、正常造血および腫瘍性造血における内因的な役割を探索し、その研究成果を発表した。この研究は、同機構先端医療研究センター血液・腫瘍研究部の田中淳特任研究員(研究当時、京都大学医生物学研究所より出向)、井上大地部長、理化学研究所の古関明彦チームリーダー、かずさDNA研究所の中山学主任研究員、京都大学の小川誠司教授、河本宏教授、高折晃史教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Leukemia」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

AMLは、骨髄の造血幹細胞に染色体異常や遺伝子変異が蓄積することによって生じる、血液悪性腫瘍の一種で、日本では年間約4,000人が新規に発症するとされている。近年の解析技術の発展により、AMLの中でも予後不良な病型には特定の遺伝子異常の合併がみられることが報告されてきた。D868Nに代表されるSETBP1遺伝子変異はそうした予後不良AMLに関連する遺伝子変異のひとつであり、SETBP1タンパク質は、DNAやクロマチン修飾因子への結合能を有することから、エピゲノム制御への寄与が予想されている。

AMLにおいて報告されているSETBP1の遺伝子変異は、SETBP1の分解を阻害することによってタンパク質レベルでの過剰発現を来す。SETBP1変異に限らずSETBP1の転写活性化もまた予後不良に関連することや、正常なマウスの造血幹細胞にSETBP1を過剰発現させると白血病発症が誘導されることも踏まえると、SETBP1の過剰発現が白血病の病態に重要な役割を果たしていると考えられる。その一方、生理的な発現レベルでのSETBP1が正常造血あるいは白血病の発症・維持においてどのような役割を担っているのかについてはこれまでよく知られていない。

AML349症例を解析、 mRNAレベルで高発現群の生存期間短縮を確認

研究グループは始めに、ヒトAML349症例のデータベースを利用して、SETBP1 mRNAの発現が特に高い群・低い群をそれぞれ抽出して臨床データを比較・検討した。その結果、やはりSETBP1 mRNA発現の高い群は発現が低い群よりも生存期間が短縮し、また予後不良に関連する他の遺伝子異常も高頻度に合併することを見出した。

SETBP1 mRNA、造血幹細胞分画で高発現量、MECOMと発現レベル相関

さらに、健常人の骨髄細胞を用いた単一細胞レベルでの遺伝子発現解析の結果から、造血幹細胞分画で特にSETBP1 mRNA発現量が高く、造血幹細胞のプログラムに不可欠なMECOM遺伝子と発現レベルが相関していることがわかった。これらの結果から、SETBP1遺伝子は造血において内因的に重要な役割を担っていると予想された。

造血細胞特異的SETBP1欠失マウス、造血維持機能に障害を示さず

続いて、Creが発現されている細胞でのみSETBP1の発現が欠失されるSETBP1fl/flマウスを新たに作成し、さらに胎生期から造血細胞特異的にCreが発現されるVav1-iCreマウスと交配することで、胎生期から造血細胞特異的にSETBP1の発現が欠失するモデルマウスを作出し、その表現形質の解析を行った。予想に反して、このモデルマウスは正常に発育・繁殖し、造血幹細胞の自己複製能・分化能・再構築能といった造血を維持する機能に障害を示さなかった。また、ATAC-seqを含む解析では、造血幹細胞における転写活性化領域(クロマチンアクセシビリティ)や遺伝子発現に関しても顕著な変化は認められなかった。これらの結果により、SETBP1の発現が正常造血に必須ではないことが示された。

ヒトAML細胞などの研究で、SETBP1は白血病の発症・維持に必須ではないと判明

次に、前述のモデルマウスの造血幹細胞に白血病を強く誘導する融合遺伝子MLL-AF9を導入したところ、対照群の造血幹細胞を用いた場合と比べて白血病発症までの期間に明らかな差は認められなかった。また、対照群から誘導されたマウス白血病細胞またはヒトAML細胞株において後からSETBP1を欠失させても、対照細胞と比べて増殖に明らかな変化はみられなかった。MLL-AF9以外の遺伝子異常を有するあらゆるAML細胞株においても同様であり、がん細胞株の大規模データベース「DepMap」においても研究グループの知見が支持された。これらの結果により、SETBP1は白血病の発症・維持にも必須ではないことが示された。

予後不良AMLのより深い病態理解が進むことに期待

これまでにも造血細胞におけるSETBP1の表現形質や分子機構についての報告はいくつも存在するが、それらはいずれもレトロウイルスベクターなどによりSETBP1を人工的に過剰発現させる実験系から得られた知見である。生理的な発現量のSETBP1が造血に果たす役割が非常に限定的であったという今回の研究成果も踏まえると、既報の実験系で示されてきたSETBP1の分子機構が本当にヒトAML症例の病態を反映しているのかについては慎重に解釈していく必要がある。一方、ヒトAML症例においてSETBP1の高発現が予後不良に関連しているという知見は今回の研究でも確認しており、SETBP1発現亢進が白血病発症に重要な役割を果たしている可能性は依然として十分に考えられる。

「現在、SETBP1変異を再現するモデルマウスを新たに作出し、より生理的な発現量におけるSETBP1変異体の機能解析に取り組んでいる。こうした解析を通じてヒトAMLにおけるSETBP1の役割をより正確かつ詳細に解明し、今後の予後不良AMLのより深い病態理解、ひいては予後改善につながる治療標的の同定を目指したい」、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大