食道扁平上皮がんには早期からマクロファージが浸潤、その意義は?
神戸大学は7月27日、早期食道扁平上皮がんにおいてマクロファージとの相互作用によってYKL-40/osteopontin-integrin β4-p70S6K経路が活性化していること、また、integrin β4高発現症例は異時性再発を来たしやすいことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科病理学分野の博士課程大学院生の浦上聡氏 (同医学部附属病院消化器内科学分野・医員)、狛雄一朗准教授、横崎宏教授、同消化器内科学分野の児玉裕三教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Pathology」に掲載されている。
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食道扁平上皮がんは食道の上皮細胞由来の悪性腫瘍であり、生命予後の比較的悪いがんの一つだ。その理由は、進行した段階では周囲の重要臓器への浸潤や他の臓器への転移のリスクが高いからである。早期の段階で発見・治療すれば長期生存が得られることが知られているが、治療した場所以外の食道にがんが再発する場合 (異時性再発) も少なくない。つまり、食道扁平上皮がんの生命予後を改善するためには、早期の段階で発見するための病理診断に役立つバイオマーカーや、治療後の異時性再発のリスクを評価できるバイオマーカーの発見が必要だ。
これまでに研究グループは進行食道扁平上皮がんの進展にマクロファージが関与することを明らかにしてきたが、早期食道扁平上皮がんを対象としてマクロファージの意義を解析した研究は世界的にもほとんどなかった。
今回研究グループは、早期食道扁平上皮がんの段階ですでにマクロファージの浸潤が病理組織学的に観察されることに着目した。正常の食道上皮の中にはマクロファージの浸潤がほとんど見られないからである。そこで、早期食道扁平上皮がんにおけるマクロファージの意義を解析するための培養実験モデルを構築し、得られた成果を実際の早期食道扁平上皮がんの病理組織検体を用いて検証することを試みた。
マクロファージと相互作用の食道上皮細胞、YKL-40/OPN-integrin β4-p70S6K経路活性化
まず、早期食道扁平上皮がんの病理組織検体を用いてマクロファージマーカーの免疫組織化学を施行した。正常の食道上皮ではマクロファージの浸潤がほとんど見られないのに対し、早期食道扁平上皮がんではマクロファージが浸潤していた。つまり、食道扁平上皮がんでは早期の段階でマクロファージと上皮細胞との間に相互作用が存在する可能性が示唆された。
そこで、食道上皮の培養細胞とマクロファージを共培養する培養実験モデルを構築したところ、マクロファージと共培養した食道上皮細胞は、YKL-40/osteopontin-integrin β4-p70S6K経路の活性化を介して増殖能や運動能が亢進することを見出した。これらの分子発現が早期食道扁平上皮がんでも見られることを病理組織検体の免疫組織化学によって確認した。
integrin β4高発現症例は異時性再発のリスクが高い
このうち、特に早期食道扁平上皮がんにおけるintegrin β4の発現は正常の食道上皮と比べて亢進し、この分子の発現強度と異時性再発の有無が有意に正の相関を示した。つまり、内視鏡的治療で切除された病理組織検体でintegrin β4を高発現する症例は異時性再発のリスクが高いことがわかった。
正常食道上皮に比べて早期食道扁平上皮がんでintegrin β4の発現が亢進していたことから、早期食道扁平上皮がんの病理診断にintegrin β4が有用である可能性が示唆された。「内視鏡的治療で切除された早期食道扁平上皮がんにおいてintegrin β4を高発現する症例は異時性再発が多かったことから、integrin β4は治療後再発を予測する有用なバイオマーカーとなる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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