乳がん検診の受診率向上には、乳がん検診に参加しない人の特徴を知ることが重要
筑波大学は7月26日、乳がん検診に参加しない人たちの特徴を明らかにし、さらに未受診を予測する簡易リスクスコアを開発したと発表した。この研究は、同大医学医療系/ヘルスサービス開発研究センターの田宮菜奈子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Breast cancer」に掲載されている。
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近年の日本の女性における乳がんの部位別がん罹患数は1位、部位別がん死亡数は4~5位で、国が検診を推奨するがんの一つとなっている。乳がんによる死亡を減らすには治療の向上だけでなく、検診による早期発見が重要だ。厚生労働省は2016年度までに乳がん検診の受診率を50%以上にする目標を掲げていたが、2019年現在、この目標は達成されていない。国は2022年3月、がん検診受診率を60%以上にする目標を閣議決定した。乳がん検診の受診率向上には、まず、どのような人たちが検診を受けないのかについて明らかにすることが重要だ。
国民生活基礎調査は、日本国民の保健・医療・福祉・年金・所得など生活の基礎的事項を調査し、国の企画または運営に必要な資料を得ることを目的としている。3年ごとに行われる大規模調査では、世帯・健康・介護・所得・貯蓄に関する調査が行われる。そして、2016年と2019年の大規模調査では「あなたは過去2年間に、乳がん検診(マンモグラフィ撮影や乳房超音波(エコー)検査など)を受けましたか」と、現在の乳がん検診の推奨受診間隔(2年おき)に沿って受診しているかを回答する項目が設けられている。
そこで研究グループは今回、これらの情報を利用し、乳がん検診未受診に関連する要因を解析した。さらに、これらのデータから、乳がん検診未受診を予測するリスクスコアを開発した。
2016年と2019年、40〜74歳女性のデータを用いて解析
研究では、2016年と2019年の国民生活基礎調査(世帯票と健康票)を用い、乳がん検診の受診が推奨されている40〜74歳の女性を対象とした。先行研究と乳腺科医の意見をもとに、調査票から12個の変数(年齢、婚姻状況、教育状況、1人当たりの支出、健康保険、雇用状況、喫煙状況、飲酒状況、自覚的健康度、K6スコア(うつ病・不安障害の発見に使う調査手法)、1年以内の特定健診の受診、定期的な医療機関への通院)を説明変数として選択し、過去2年間の乳がん検診の未受診を目的変数として多変量ロジスティック回帰分析を行った。さらに、2016年のデータを用いて乳がん検診の未受診を予測するリスクスコアを作成し、2019年のデータでスコアの予測能を検証した。
50歳以上、独身・離婚、非正規雇用、定期通院なしなどが検診未受診と有意に関連
2016年と2019年の乳がん検診受診者の割合はそれぞれ46.7%(5万177人/10万7,513人)、48.7%(4万9,498/10万1,716人)だった。多変量ロジスティック回帰分析の結果、乳がん検診の未受診と統計学的に有意な関連を示した変数は、50歳以上、独身・離婚・離別、低い教育状況、低い世帯支出、(加入している健康保険のタイプとして)国民健康保険、小中規模企業の被雇用、非正規雇用、喫煙、非飲酒、中・高リスクの飲酒、低い自覚的健康度、高いK6スコア、特定健診の未受診、医療機関の定期的な通院がないことだった。
検診未受診リスクスコアの9項目は年齢、婚姻・教育・雇用状況、国民健康保険など
これらの変数の回帰係数を整数に近似した結果、最終的に作成されたリスクスコアには9項目が含まれ、各項目のスコアは年齢(55〜64歳:1点、65〜74歳:3点)、婚姻状況(独身:2点、離婚・離別:1点)、教育状況(小・中学校:2点、高校・専門学校・短大・高専:1点)、健康保険(国民健康保険加入者:1点)、雇用状況(中規模企業の被雇用と非正規雇用:1点)、喫煙(2点)、飲酒(非飲酒と中・高リスクの飲酒:1点)、特定健診の未受診(8点)、医療機関の通院なし(1点)だった。
簡易的リスクスコアは年齢、健康保険の種類、過去1年以内の特定健診未受診の3項目
さらにここから、がん検診を担う自治体などの保険者が客観的に把握できる3項目の簡易リスクスコアを作成。3項目は年齢(55〜64歳が1点、65〜74歳が3点)、健康保険のタイプ(国民健康保険加入者の場合1点)、過去1年以内の特定健診が未受診であること(8点)とした。9項目、3項目のROC曲線下面積(AUC)は、それぞれ0.744、0.720であり、全ての候補変数を用いたモデル(AUC:0.750)と比較しても遜色がない良好な識別能を示したという。
日本の乳がん検診の受診率向上につながることに期待
がん検診を担う現場で今回の研究が活用されれば、乳がん検診を受診しない可能性が高い女性を把握し、そのような人たちに定期的な受診を働きかける(ハガキの送付回数を増やすなど)ことに役立つ。また、50歳以上では年齢の上昇に伴って受診率が低下するが、乳がん対策の基本方針を決定する際に明確な受診推奨年齢を公表するなど、社会への働きかけが可能となる。その結果、日本の乳がん検診の受診率向上につながることが期待される。今後はそれぞれの自治体が持つ乳がん検診のデータでも同研究と同様の特徴を認めるかを検証し、実際の乳がん検診の運用に役立てていくことが望まれる。
「本研究は新型コロナウイルスのパンデミック前のデータを解析した研究結果となる。新型コロナウイルスのパンデミック中に乳がん検診受診率がどのように変化したのか、どのような特徴を持つ人たちが検診を受けなくなったのか、についても最新の国民生活基礎調査のデータを解析することが望まれる」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL