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褐色脂肪細胞の鍵因子NFIAが、エネルギー消費を促進し炎症も抑制-東大

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2023年07月27日 AM11:29

脂肪細胞でNFIAを高発現させることは肥満や糖尿病の改善につながるのか?

東京大学は7月25日、「エネルギー消費の促進」に基づく肥満や糖尿病の治療標的として期待される褐色脂肪細胞の鍵因子として研究グループが以前同定した転写因子「nuclear factor IA()」を脂肪細胞に高発現させた遺伝子改変マウスを作出。このNFIAがマウスの肥満や糖尿病を改善させることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大保健・健康推進本部 平池勇雄助教と、同大大学院医学系研究科 山内敏正教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, PNAS」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

全世界に蔓延する肥満や糖尿病の新規治療法を開発し、続発する循環器疾患、肝腎疾患や悪性腫瘍等を減らすことは健康長寿の実現に向けた課題と言える。糖尿病の治療は過去20年ほどで飛躍的に進歩した一方、糖尿病の背景にしばしば存在する肥満に対する介入は依然として食事や運動に関する生活指導が主体だ。高度肥満例に対する減量手術の有効性は確立されているものの、日本においては適応となる患者数はそれほど多くない。また、既存の薬物治療や外科治療は全て「エネルギー摂取の抑制」を意図するが、エネルギー収支を平衡させるには「エネルギー消費の促進」という方針も考えられる。

脂肪細胞には脂肪滴としてエネルギーを貯蔵する機能が主体の「白色脂肪細胞」に加え、ミトコンドリアにおける「uncoupling protein-1(Ucp1)」の作用を介してエネルギーを消費し熱を産生する「」と呼ばれるサブタイプが存在する。従来、げっ歯類やクマなどの冬眠動物では冬眠前後の体温調節における褐色脂肪細胞の重要性がよく知られていたが、近年になってヒト成人においても一定量の褐色脂肪細胞が存在すること、さらに褐色脂肪細胞の活性が肥満の指標であるbody mass index(BMI)と負に相関し、加齢に伴って低下することが報告されている。そのため、褐色脂肪細胞は「エネルギー消費の促進」に基づく肥満や糖尿病の治療標的として期待されている。研究グループはこれまで、褐色脂肪細胞の分化を制御する鍵因子として転写因子「nuclear factor I-A(NFIA)」を同定し、その作用を解析してきた。

研究グループは今回、脂肪細胞においてNFIAを野生型マウスと比較して5倍程度高発現させた遺伝子改変マウス(NFIAトランスジェニックマウス、NFIA-Tg)を作出し、脂肪細胞においてNFIAを高発現させることが肥満や糖尿病の改善につながるか検証した。

NFIAがエネルギー消費促進作用を持つことをNFIA-Tgで確認

NFIA-Tgは高脂肪食負荷条件において野生型と比較して全身のエネルギー消費量が亢進し、体重増加は抑制され血糖値の上昇も抑えられた。つまり、脂肪細胞のNFIAは抗肥満作用と抗糖尿病作用を有していた。なお、NFIA-Tgでは両群に体重差を認めない高脂肪食負荷の開始早期から血糖値の上昇が抑えられており、NFIAは抗糖尿病作用と独立した抗肥満作用を有すると考えられた。

NFIAは慢性炎症抑制作用も有することが判明

網羅的な遺伝子発現解析の結果、褐色脂肪細胞の遺伝子発現パターンは野生型とNFIA-Tgであまり差がなかったものの、白色脂肪細胞においてNFIAが褐色脂肪細胞の遺伝子プログラムを活性化し、ミトコンドリアの機能を高めていることが判明した。また、NFIAは白色脂肪細胞において高脂肪食負荷が惹起する慢性炎症を抑制する作用も有していた。NFIAは脂肪細胞から分泌されて全身の炎症を促進し肥満や糖尿病を増悪させる因子として良く知られる「Monocyte chemotactic protein1(MCP-1)」の発現を抑制し、結果として脂肪組織の炎症所見を改善させた。

マウスのみならずヒトの脂肪細胞でも抗炎症作用を有する可能性

実際、クロマチン免疫沈降と次世代シークエンスを組み合わせたChIP-seq解析によって、転写因子NFIAがMCP-1をコードするCcl2遺伝子の発現を負に制御することを明らかにした。ヒト脂肪組織においてもNFIA遺伝子の発現量とCCL2遺伝子の発現量は負に相関しており、マウスのみならずヒトの脂肪細胞においてもNFIAは抗炎症作用を有する可能性が示唆された。

NFIA発現量や作用を高める治療薬開発につながることに期待

交感神経刺激や寒冷刺激によりヒト褐色脂肪細胞を活性化しエネルギー消費量を上昇させられることは従来から知られていたが、これらの刺激によって褐色脂肪細胞の活性は上昇する一方で血圧や脈拍の上昇等の副作用は避けられず、交感神経系の活性化を介して褐色脂肪細胞を活性化させる肥満治療薬の実用化は困難と考えられてきた。しかし今回の研究により、少なくともマウスについては脂肪細胞におけるNFIAの発現を高めることで肥満や糖尿病を治療できることが示された。今後、低分子化合物の経口投与など遺伝子改変を伴わないかたちでNFIAの発現量ないし活性を高める手法を開発できれば、ヒトにおける肥満や糖尿病の治療法に結実する可能性が期待される。

「NFIAがエネルギー消費の促進に関わる褐色脂肪細胞の遺伝子プログラムは正に制御する一方で、炎症に関わる遺伝子プログラムは負に制御するという文脈依存的な転写制御機構は、生物学的に興味深い研究対象であるとともに、その制御機構の理解によって個々の病態により高精度に対応した肥満や糖尿病の治療につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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