WHOの医療ビッグデータ「VigiBase」を活用して、世界の発生状況を調査
岡山大学は7月24日、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による心筋炎のリスク因子を明らかにし、免疫チェックポイント阻害剤とチアジド系利尿剤の併用は心筋炎の発症リスクを高めることがわかったと発表した。この研究は、同大病院薬剤部の濱野裕章講師と座間味義人教授、下越病院(新潟市秋葉区)の三星悟薬剤師、カリフォルニア大学アーバイン校のAya F. Ozaki助教、Pranav Patel教授、徳島大学病院薬剤部の石澤啓介教授、岡山大学学術研究院医歯薬学域(同大学大学院医歯薬学総合研究科附属医療教育センター)の小山敏広准教授、名古屋大学大学院情報学研究科生命情報論講座の山西芳裕教授、国立医薬品食品衛生研究所薬理部の諫田泰成部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Cancer」に掲載されている。
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医療情報ビッグデータを活用したデータサイエンスにより、近年、免疫チェックポイント阻害剤が開発され、多くのがん患者に対して広範に使用されている。しかし、これらの薬剤は心筋炎という重篤な副作用を引き起こす可能性があり、どのような患者が心筋炎を発症しやすいのか、その詳細については明らかではなかった。研究グループは、免疫チェックポイント阻害剤が誘発する心筋炎のリスク因子に焦点を当てて研究を行ってきた。しかし、免疫チェックポイント阻害剤が誘発する心筋炎の発症は非常にまれであるため、日本国内における臨床使用の経験がまだ十分に蓄積されていない。
そこで、数千万件の副作用報告が蓄積されている世界保健機関(WHO)の有害事象報告システム「VigiBase」を活用し、世界中の情報を集約することで、免疫チェックポイント阻害剤による心筋炎の発生状況を詳細に解析することができると考えた。
年齢や性別、他の利尿剤の併用などの影響を排除しても心筋炎が引き起こされる可能性が高い
研究グループは、免疫チェックポイント阻害剤を使用した患者において、どのような薬剤を併用した際に心筋炎が頻発するのかを調査した。その結果、免疫チェックポイント阻害剤とチアジド系利尿剤を組み合わせると、心筋炎のリスクが増加することが示唆された。さらに、このような免疫チェックポイント阻害剤とチアジド系利尿剤の併用したときの心筋炎は、その他の要素(年齢や性別、他の利尿剤の併用など)の影響を排除しても、引き起こされる可能性が高いことが明らかになった。
これらの薬物は心血管イベントの治療において重要な役割を果たしているが、個々の薬物の副作用リスクについての研究が進められ、心筋炎発症時の最適な薬物療法の選択につながる可能性が期待される。
心筋炎の予防を視野に入れた薬物治療の個別化に期待
今回の研究は、医療情報ビッグデータであるリアルワールドデータから得られた情報を実際の必要とされている臨床現場に還元するものと言える。「研究で特定された、心筋炎のリスクを増大させる可能性のある薬剤の併用は、各患者の基礎疾患や治療方針と比較し、その患者にとって最適な薬物療法の選択に役立つと考えられ、心筋炎の予防を視野に入れた薬物治療の個別化が可能になると期待される」と、研究グループは述べている。
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