従来は臨床測定値による診断、より正確な診断のために遺伝子レベルのマーカーを探索
国立長寿医療研究センターは7月18日、サルコペニア患者と健常者の血液を用いた網羅的な遺伝子発現データ(RNAシークエンシング)と臨床情報の統合解析から、歩幅と3つの遺伝子(HERC5、S100A11、FLNA)がサルコペニア診断に有効なバイオマーカー候補であると同定したと発表した。この研究は、同研究センター研究所の重水大智部長らと広島大学大学院医系科学研究科循環器内科学の中野由紀子教授、古谷元樹大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journals of Gerontology Series A biological sciences and medical sciences」に掲載されている。
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サルコペニアは、筋肉量・筋力の低下をきたす老年病の1つで、高齢化社会の進展に伴い、患者数が増加傾向にある。また、サルコペニアは死亡や要介護化のリスクを向上させるため、早期診断・介入が望まれている。これまでのサルコペニア診断は、臨床測定値(主に身体活動に関するもの)が用いられてきたが、遺伝子レベルの診断マーカーが、より正確なサルコペニアの診断の改善に役立つものと考えられている。
疾患発症関連の遺伝子セットを網羅的に探索、3遺伝子を同定
今回、研究グループは、同研究センターバイオバンクおよびロコモフレイルセンターに登録されているサルコペニア患者52人、健常者(normal control:NC)62人の血液を用いてRNAシークエンシング解析を行い、疾患発症に関連する遺伝子セットを網羅的に探索した。また、同定した遺伝子セットと臨床情報を組み合わせた統合解析から(機械学習アルゴリズムの1つであるランダムフォレストを適用)、サルコペニア発症予測モデルを構築。その結果、歩幅と3つの遺伝子(HERC5、S100A11、FLNA)が最も高い予測精度の実現に貢献した。これらのバイオマーカーは、BMIを考慮した場合においてもその予測精度は高く維持されたことから、サルコペニア肥満の評価にも有効である可能性が示唆された。
同定の3遺伝子は動脈硬化などと関連、サルコペニア発症で炎症が大きな役割の可能性
同定された3つの遺伝子は、筋炎や動脈硬化との関連が報告されており、サルコペニアの発症で炎症が大きな役割を果たしている可能性を改めて示したという。さらに、これらの遺伝子は血中だけでなく、筋肉でも発現していることが確認された。したがって、これらのバイオマーカーはサルコペニアの診断に有効なだけでなく、筋肉量・筋力の低下をきたす疾患であるサルコペニアの病態メカニズムの解明にもつながる可能性が示唆されたとしている。
サルコペニア発症メカニズム解明や予防研究への貢献に期待
今回研究グループは、分子生物学的アプローチ(RNAシークエンシング解析)を通して、新たなサルコペニア診断に有効なバイオマーカー候補を同定した。同研究で同定したバイオマーカーは、従来の臨床評価項目を中心としたサルコペニアの診断に新たな選択肢を提供できるだけでなく、サルコペニアの発症メカニズムの解明やサルコペニア予防の研究等に貢献すると期待される、と研究グループは述べている。
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