熱傷を負った際の生体内の変化、プロテオミクスで捉えられるか
大阪大学は7月20日、重症熱傷(やけど)患者の血液中のHBA1、TTR、SERPINF2という3種類のタンパク質が生存死亡(転帰)に関わっていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科大学院生の大西伸也氏、蛯原健特任助教、松本寿健特任助教、小倉裕司准教授、織田順教授、阪大微生物病研究会(BIKEN財団)の杉原文徳氏(研究当時:免疫学フロンティア研究センター・微生物病研究所中央実験室 助教)、JCHO中京病院第一救命救急センターの大須賀章倫センター長らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
重症熱傷は循環系、免疫系、代謝系、凝固系など生体中でとても多くの領域に変化を引き起こすため、どのようなことが起きているのかは完全には解明されていない。重症熱傷による死亡者数を減らす為には、生体内で何が起きているかを解き明かしていく必要がある。近年の測定機器やプロテオミクス技術の発達により、一度にとても多くのタンパク質を網羅的に解析することが可能となっている。熱傷のプロテオミクスはまだ新しい研究分野であり、熱傷を負った際の生体内の変化を捉えられる可能性がある。
重症者と対象者の血漿タンパク質642種から絞り込み、死亡率予測に寄与する3つを同定
今回、研究グループは日本で有数の熱傷診療施設であるJCHO中京病院に入院となった重症熱傷患者83人および健康なボランティア10人の血液(血漿)中の642種類のタンパク質を測定し解析した。
その結果、健康な人との比較において、重症熱傷では23種類のタンパク質の発現量が大きく異なることがわかった。また、受傷から28日以内に死亡した症例と生存した症例を比較したところ、受傷日の時点で10種類のタンパク質量が大きく変化していることがわかった。
さらに、この中でも顕著に差があった3つのタンパク質(HBA1、TTR、SERPINF2)を用いて重症熱傷患者の潜在クラス分析を行い、3つのフェノタイプに分類した。その結果、HBA1の発現量が高くTTRやSERPINF2の発現量が低いサブグループは死亡率がとても高く、TTRやSERPINF2の発現量が高いサブグループは受傷から28日の時点でほとんど死亡していないことがわかった。
転帰に関与するタンパク質を標的にした治療方法の開発にも
「本研究成果には大きく2つの意義があると考えている。第一に、今回フェノタイピングに用いた3つのタンパク質が重症熱傷における予後予測マーカーとなり得る点である。熱傷の見た目に紛らわされることなく身体内での変化を評価することができる可能性がある。第二に、生存死亡(転帰)に関与していると示唆されたタンパク質は受傷日当日の時点ですでにその量に変化が見られ、これらのタンパク質をターゲットにした新たな治療方法の開発につなげることができれば、重症熱傷急性期における治療のブレークスルーになる可能性があると考えている」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪大学 ResOU