日常生活レベルの歩行データから、転倒リスク指標を見いだせるか
横浜市立大学は7月24日、歩行指標を日常的に簡便に収集できる、感知型デバイス搭載靴(スマートシューズ)について歩行調査を行った結果発表した。この研究は、同大附属病院救急科の三澤菜穂医師、西井基継講師らと、株式会社MTGの共同研究によるもの。研究成果は、日本老年医学会で発表された。
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高齢者の転倒は、救急搬送や要介護の主な原因となり、転倒のリスクについて評価し、予防することは、社会的な課題である。転倒リスク指標として、筋肉量や筋力だけではなく、歩き方や歩くときの重心の移動、加速度などの歩行指標の重要性が報告されているが、これまでの研究で、定点における特殊な環境で評価されてきた歩行指標は、必ずしも日常生活レベルを反映しているわけではなかった。
最近、スポーツ能力の向上を主な用途として、スマートシューズが開発された。一方、高齢者におけるその有用性は十分に検討されていない。そこで、スマートシューズを用いて、高齢者に特徴的な日常生活レベルでの歩行パターンおよびその指標を抽出することを目的に調査研究を行った。
BMIやSARC−F、筋肉量などに差がなくとも、歩行推進力や地面反力などに差
横浜市在住の一人で歩くことが可能な患者を対象に、スマートシューズを履いて歩行を行ってもらい、歩行指標(地面反力、左右方向せん断力、推進方向剪断力、加速度)のデータを収集した。そして、このデータを65歳以上の高齢者群と65歳未満の若年者群で、統計学的に比較検討した。
被験者は計62人で、高齢者群50人、若年者群12人だった。どちらの被験者群においても、Barthel Index(ADLを評価する指標)、SARC−F(サルコペニアのスクリーニングに使用)、ボディマス指数(BMI)および筋肉量などに差はなかった。一方で、スマートシューズで得られるセンサー圧のデータを検討したところ、高齢者と若年者で有意な差が確認された。具体的には、母趾球(足の親指の付け根)にかかる各センサー圧について、前方向を正とした前後方向にかかる力(推進力)、外側方向を正とした左右方向にかかる力(左右せん断力)、下方向を正とした垂直方向にかかる力(地面反力)のいずれにおいても、若年者と高齢者で有意差を認めた。
在宅筋肉トレーニングなど新たな在宅管理療法の開発に期待
これらの結果から、加齢による歩行変化の特徴を捉えることができたと考えられた。また、日常の活動度、ボディマス指数(BMI)および筋肉量が保持されている高齢者においても、スマートシューズを用いることで、日常生活における歩行安定性の低下を早期に検出できる可能性が示された。
「高齢者や、基礎疾患をかかえるサルコペニアの患者は、骨格筋量や骨格筋力の低下により、転倒や急病での救急搬送の増加につながる。基礎疾患のコントロールと共にサルコペニアに対する予防も大変重要であり、研究成果を踏まえ、在宅筋肉トレーニングなどの新たな在宅管理療法の開発につなげたい」と、研究グループは述べている。
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