高齢者約3,200人6年間追跡調査、浴槽入浴とうつ病発症の関連を検討
東京都市大学は7月24日、高齢者の浴槽入浴について、うつ病発症長期的予防効果を明らかにすることを目的として調査・解析した結果を発表した。この研究は、同大人間科学部の早坂信哉学部長・教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine」に掲載されている。
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高齢者におけるうつ病の発症はさまざまな疾患のリスクとなり、要介護状態に陥るきっかけとなるため、その予防は喫緊の課題だ。一方、日本においては浴槽の湯につかる特有の入浴法が多くの国民の生活習慣となっている。しかし、これまでこの生活習慣としての浴槽入浴と長期的なうつ病発症との関連は明らかではなかった。そこで今回の研究では、6年間にわたる追跡研究によって生活習慣としての浴槽入浴が長期的なうつ病発症への予防効果を持つかを明らかにすることを目的とした。
研究では、Japan Gerontological Evaluation Studyの一環として2010年、2016年に調査対象となった全国14の自治体の65歳以上の1万1,882人のうち、自立しておりかつ老年期うつ病評価尺度Geriatric Depression Scale(以下、GDS)4点以下でうつ病がなく、解析に必要なデータが揃っており、夏の入浴頻度の情報のある3,220人、および冬の入浴頻度の情報がある3,224人をそれぞれ解析の対象とした。コホート研究(追跡研究)として2010年に週0~6回の浴槽入浴をしている者と週7回以上の浴槽入浴をしている者の各群の6年後のGDSが5点以上となったうつ病発症割合をそれぞれ求めた。他の要因の影響を考慮して浴槽入浴とうつ病発症の関連を検討するために、ロジスティック回帰分析によって年齢、性別、治療中の病気の有無、飲酒の有無、喫煙の有無、婚姻状況、教育年数、等価所得を調整して多変量解析でオッズ比(うつ病の罹りやすさ)を求めた。
週7回以上の浴槽入浴でうつ病発症割合「低」、冬の浴槽入浴との関連は有意差あり
研究の結果、6年後のうつ病発症割合は、夏の浴槽入浴回数が週0~6回の者で12.9%、週7回以上の者で11.2%、冬の浴槽入浴回数が週0~6回の者で13.9%、週7回以上で10.6%であり、いずれも週7回以上の浴槽入浴をしている者でうつ病発症割合が低く、特に、冬の浴槽入浴との関連は統計学的有意差があった(P=0.007)。
年齢や性別など他の多くの要因を考慮した多変量解析の結果、夏の浴槽入浴回数が週0~6回の者に対して週7回以上の者のうつ病の罹りやすさ(オッズ比)は0.84倍、冬の浴槽入浴回数が週0~6回の者に対して週7回以上の者のうつ病の罹りやすさ(オッズ比)は0.76倍で、いずれも週7回以上浴槽入浴をしている者はうつ病に罹りにくく、特に冬の浴槽入浴では統計学的有意差があった(P=0.033)。これは浴槽入浴の温熱作用を介した自律神経のバランス調整作用や睡眠改善などのうつ病予防作用による、習慣的実施の結果と推察された。以上の結果より、うつ病発症予防のため、高齢者へ、できれば毎日の浴槽入浴が勧められることが示唆されたとしている。
浴槽入浴、高齢者の心身の健康維持のための重要な生活習慣
今回、大規模な追跡調査で浴槽入浴がうつ病発症の予防につながることが初めてわかった。「気持ちが良い」「良く眠れる」といった入浴の短期的かつ主観的な作用だけでなく、浴槽入浴が将来のうつ病発症を予防する重要な生活習慣であることが明らかになったとしている。同研究は、浴槽入浴が高齢者の心身の健康維持のための重要な生活習慣であることを、医療や保健、福祉関係者だけでなく国民に広く認識してもらうためのエビデンスとなる、と研究グループは述べている。
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