IgRTで重篤な合併症の場合はHCT適応に、詳細は症例報告に留まる
東京医科歯科大学は7月24日、X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)に対する造血細胞移植の国際調査で、免疫グロブリン補充療法のみでは重篤な合併症を抑えることができない患者に対する代替的な根治治療として造血細胞移植の安全性と有効性を示したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科小児地域成育医療学講座の金兼弘和教授、発生発達病態学分野の森尾友宏教授、同分野の西村聡助教ら、英国Newcastle大学のAndrew Gennery教授を始めとするアジア・欧州・米国の諸施設との共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Clinical Immunology」オンライン版に掲載されている。
XLAは、先天性免疫異常症のひとつであり、抗体産生不全によって頻回に感染症にかかる疾患。このため、XLA患者は生涯にわたって抗体の成分である免疫グロブリン補充療法(IgRT)を必要とする。また、IgRTを行っていても重篤な感染症などの合併症にかかることがある。この重篤な合併症にかかる場合には同種造血細胞移植(HCT)の適応となり得る。これまでXLAにおけるHCT経験は症例報告に留まり、その詳細は明らかではなかった。
アジア・欧州・米国でHCTを受けたXLA患者22症例を解析
今回の研究では、日本だけでなく、アジア・欧州・米国の13施設との共同研究によってXLA患者でHCTを受けた患者の特徴、移植方法や移植成績を解析した。同研究では、HCTを受けたXLA 22症例を解析。HCTが必要と判断された理由は、16例が再発または生命を脅かす感染症、3例が悪性腫瘍、3例がその他の要因だった。ドナーの細胞が生着するために必要な前処置には、骨髄破壊的前処置(MAC)、毒性減弱骨髄破壊的前処置(RT-MAC)、強度減弱前処置(RIC)がそれぞれ4例、10例、8例で選択された。
22症例中21例でドナー細胞が安定に生着、2年間OS86%、EFS77%
ドナー細胞の安定した生着は21例(95%)で達成された。2年間の全生存率(OS)は86%、無イベント生存率(EFS)は77%だった。欧州免疫不全症/欧州血液骨髄移植学会がガイドラインで推奨しているトレオスルファン、ブスルファン、またはメルファランを用いたRT-MACまたはRICを受けた症例では、2年OSは82%、EFSは71%だった。最終的に、XLA 21例(95%)が完全または安定した高レベル混合キメラ(50-95%)を獲得し、1年間でのIgRT中止率は89%だったという。
IgRTがXLAに対する標準治療であるという基本方針に変わりはないが、以上の結果からHCTはXLA患者に対する安全かつ有効な代替根治療法であることが示されたとしている。
客観的根拠に基づいた代替的な根治治療選択肢を提示
これまで、国際的にXLAにおけるまとまった移植経験が公表されていなかったため、XLA患者に移植を実施するタイミングや、実施した際の安全性や有効性は明らかにされていなかった。同研究によって世界で初めて多数例のXLAの移植経験が報告され、感染症や悪性腫瘍などの要因によって移植を実施する必要がある症例が多いこと、合併症によって臓器障害が起こる前に移植を実施することが望ましいことが明らかになった。また、ガイドラインに基づいた前処置を用いることによって、有効で安全な移植を実施出来ることも明らかになった。同研究成果により、合併症によって治療の判断が難しいと考えられている世界中のXLA患者に対して、客観的根拠に基づいた代替的な根治治療の選択肢が提示された。また、今後のさらなる移植方法の改変に伴うXLA患者での移植成績の向上や移植後の免疫環境の研究の礎となるものと考えられる、と研究グループは述べている。
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・東京医科歯科大学 プレスリリース