温度感受性TRPチャネルの中で、多くが表皮細胞に存在するTRPV3に着目
生理学研究所は7月20日、皮膚の表皮細胞にあるTRPV3が温かい温度を感知して温度依存性行動につなげていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所生命創成探究センターの富永真琴教授、LEI Jing NIPSリサーチフェロー、佐賀大学の城戸瑞穂教授、慶應義塾大学医学部皮膚科学教室の天谷雅行教授、東京工科大学の松井毅教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
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「熱い」「冷たい」などの温度を感じる際に、非常に重要な役割を果たすのは感覚神経である。感覚神経には温度感受性TRPチャネルと呼ばれる一群のイオンチャネルが存在し、なかでも2021年ノーベル医学生理学賞の研究対象であるTRPV1(43度以上で活性化)やTRPM8(29度以下で活性化)などの活動が脳に伝えられると、「熱い」「冷たい」といった温度感覚が生まれる。しかし、32~39度ほどの温かい温度で活性化するTRPV3は、感覚神経には、ほとんど存在しておらず、多くは皮膚の表皮組織に存在している。感覚神経だけでなく、皮膚の表皮細胞も温度を感知している、という概念は以前から提唱されていたが、いろいろな意見があり、表皮組織のTRPV3の反応が、脳まで伝わり、温度感覚を生むのかについては、結論が出ていなかった。
TRPV3、表皮細胞に存在するTMEM79の影響を受ける
研究グループは、TRPV3の働きを詳細に調べるため、TRPV3と同じく表皮細胞に存在し、機能がよくわかっていないタンパク質TMEM79に着目した。まず、TRPV3とTMEM79を培養細胞に共発現させ、TRPV3を活性化させた際の電流を調べた。その結果、TRPV3のみが存在している場合に比べて、TMEM79とTRPV3が共に存在するとTRPV3の電流が小さくなることがわかった。この結果から、TMEM79がTRPV3による電流に影響を与えていることが明らかになった。
TMEM79欠損マウスは野生型より温かい温度を好む、TRPV3の電流が増大
TMEM79欠損マウスを作製し、TMEM79欠損マウスの温度嗜好性行動を観察した。ドーナツ型のThermal Gradient Ring装置を使い、室温25度の状態で、床温度を10度から45度の間でなだらかに変化させたところ、野生型マウスは約30.4度を好んだ一方、TMEM79欠損マウスは、より温かい温度(34.4度)にすばやく移動した。このことから、TMEM79欠損により、表皮細胞のTRPV3電流の大きさが変わった結果、マウスの温度感覚に影響が出ていることが考えられた。
実際に、TMEM79を欠損したマウス尾の表皮細胞におけるTRPV3電流の大きさを調べたところ、通常のマウスに比べて、TRPV3の電流が大きくなっていた。通常の状態ではTMEM79によってTRPV3電流の大きさが抑えられているが、TMEM79を欠損させることで、 TRPV3電流が大きくなったと考えられた。
TMEM79はTRPV3の細胞膜量をコントロールして、温かい温度を感知する能力を制御
最後に、研究グループは、なぜTRPV3とTMEM79が共に表皮細胞に存在すると、TRPV3の電流が小さくなるのかを検証した。通常TRPV3は細胞膜に発現するが、TMEM79と共発現させるとTRPV3は細胞膜から細胞内に移動した。細胞膜上のTRPV3量が減少したので、TRPV3の電流が小さくなったと考えられた。また、細胞全体のTRPV3量も減少していることや、多くのTRPV3はタンパク質分解に関わるリソゾームに存在することから、TRPV3が分解されていることが示唆された。さらに、細胞膜上にTRPV3とTMEM79が結合して存在することも判明した。以上のことから、研究グループは皮膚の表皮細胞でTRPV3がTMEM79と結合して、表皮のTRPV3量を制御することで、皮膚の温度感受性をコントロールしていると結論づけた。
これまで、皮膚の表皮細胞の情報が脳まで伝わり温度感覚を生むのかどうかについては議論の的となっていたが、明確に「表皮細胞が温度感覚に影響を与えている」ことが示され、これまでの論争に終止符が打たれた。「TRPV3、TMEM79の機能を制御して、温度感覚をコントロールする方法の開発が可能になることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・生理学研究所 プレスリリース