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3分で睡眠改善、抱き枕「ハグビー」を用いた呼吸介入で-東京医歯大ほか

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2023年07月24日 AM11:04

睡眠の質の改善に効果があるとされる呼吸法、継続困難という課題

東京医科歯科大学は7月18日、抱き枕型の通信メディア「(R)」を用いた就寝前の3分間の呼吸法によって、成人の睡眠の質が改善されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男教授と政策科学分野の土井理美助教の研究グループ、株式会社国際電気通信基礎技術研究所との共同研究によるもの。研究成果は、「Sleep and Breathing」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

日本の成人の約3割が睡眠の問題を抱えており、身体的・精神的健康に悪影響を及ぼすことがわかっている。睡眠の質を改善させる方法として薬物治療があるが、副作用や薬への依存性などがあることから、薬物を使用しない心理的・行動的介入が第一選択として推奨されている。しかし、効果が示されている心理的・行動的介入は、介入を提供できる人が不足していたり、介入期間が長いために継続して介入を受け続けることが難しかったりと、限界がある。

睡眠の質の改善に効果があるとされる呼吸法は、比較的簡単に個人でできる介入であるが、自分一人で続けなくてはならないこと、楽しさがないことから、睡眠の質が改善されるまで呼吸法を継続することが難しいという課題があった。

抱き枕から流れる音声ガイドに沿って3分間の呼吸法を就寝前に行うプログラムを開発

研究グループは今回、ロボット人間工学から開発された抱き枕型の通信メディア「ハグビー」を用いた就寝前の3分間の呼吸法を開発した。高さ75cm、重さ600gのハグビーは、ポリスチレンミクロビースが充填され、スパンデックス繊維で覆われており、スマートフォンを収納できるサイドポケットが備えられている。スマートフォンからは、男性または女性の静かで心地よい声でガイドされる呼吸法が流れる。具体的には、3秒息を吸い、1秒間息を止めて、4秒間息を吐くという内容だ。

睡眠の質が悪いと報告する外来患者71人を、毎日就寝前にハグビーを用いた3分間の呼吸法を4週間行う介入群(32人)と、何も行わない対照群(39人)にランダムに振り分け、介入によって睡眠の質が改善されるかどうかを検証した。4週間の介入中は、研究グループがSNSを通して呼吸法を実践するよう、週に1回のリマインドメッセージを入れた。

介入群で睡眠改善効果、7割以上が毎晩実践

研究に参加した外来患者のうち同意撤回をした4人を除いた67人(介入群:29人、対照群:38人)が解析対象だった。ピッツバーグ睡眠質問票という睡眠障害の程度を評価するツール(PSQI)を使って、介入前、介入開始から2週間後、介入開始から4週間後に睡眠の問題を評価した。

統計解析の結果、対照群と比べて、介入群のPSQI合計得点が低下していることが示された。PSQIには複数の下位項目がありますが、なかでも主観的な睡眠の質に関する得点が低下していた。つまり、ハグビーを用いた呼吸法によって、睡眠の質が著明に改善することが明らかになった。また、睡眠改善の効果は、介入開始から2週間後にすでに現れていることも示された。

介入群におけるプログラムの遂行度を確認した結果、介入開始から2週間後、4週間後のいずれにおいても、介入群の参加者の7割以上が毎晩プログラムを実践し、全く実践しなかったという参加者はいなかった。

精神症状がある参加者では介入効果を認めず

さらに、介入前の自殺リスク(希死念慮または自傷念慮あり対なし)、子ども期の逆境体験(1つ以下対2つ以上)で、介入効果に違いがあるかを検討した。その結果、自殺リスクがない参加者では中程度の効果が認められたが、自殺リスクがある参加者では介入の効果が認められなかった。また、子ども期の逆境体験が1つ以下の参加者には大きな介入効果が見られたが、2つ以上子ども期の逆境体験がある参加者では介入効果が認められなかった。つまり、精神症状やそれにつながる潜在的な課題を抱える個人よりも、精神症状がない、もしくはあったとしても軽度の個人に対して、ハグビーを用いた呼吸法が効果的である可能性が示唆された。

これらの結果から、ハグビーを用いた就寝前3分間の呼吸法は、睡眠の質を改善させる効果があることがわかった。また、ハグビーを使うことは、多くの人が続けやすい介入であり、介入効果も開始2週間から見られることが明らかになった。一方、精神症状が強い個人には、介入効果がなかったため、睡眠の問題を含む精神症状に対する治療を優先させる、心理師等による介入、薬物治療などの強度が強い介入を選択することが望ましいと考えられた。

簡便に実践できるなど費用対効果の面でも利点

ハグビーによる3分間の呼吸法は、費用対効果という点で新規性がある。具体的には、4つで有意性がある。第一に、介入に費やす時間は、わずか毎晩3分であり、自宅で簡便に実践できる方法ということだ。介入を受ける個人は、ハグビーと呼吸法に使う音声さえあれば、狭いスペースで実践することができる。第二に、ハグビーを使うことで呼吸法の遂行度も高いため、介入の脱落率が低いということだ。効果が示されている睡眠に対する心理的・行動的介入に、睡眠に対する認知行動療法(CBT-I)があるが、脱落率は約15%であるのに対し、今回の研究参加者の脱落率は0%だった。

第三に、ハグビーによる呼吸法の効果は介入開始から2週間後に現れており、他の心理的・行動的介入よりも短い期間という点だ。第四に、ハグビーを用いた呼吸法のやり方さえ説明ができれば、医療スタッフでなくとも介入を提供できるという点だ。今回の研究では、ハグビーによる3分間の呼吸法の実践方法を研究グループが説明したが、説明動画を作成することで人が関わらなくとも実践することができる。また、週に1回、SNSを通してリマインドメッセージを送っていたが、リマインド機能が備わったアプリを開発することで、この問題も解消される。

非薬物治療として保険適用化、企業の福利厚生サービスへの発展に期待

「ハグビーを用いた呼吸法は、精神的症状の程度が比較的低い個人においてより効果的であることからも、精神科以外の医療機関に通院する患者を対象とした、非薬物治療として保険適用化を目指すことができると考えられます。また、通院はしていないが睡眠に問題があると感じている個人を対象に(例えば、企業の福利厚生サービスとして)、簡便に個人で取り組める方法として発展させることが期待できる」と、研究グループは述べている。

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