乳がん内リンパ球を、遺伝子発現パターン解析で客観的に評価
東京医科大学は7月14日、遺伝子発現パターンから推定した腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)量が、乳がんの生存率に関係することを証明したと発表した。この研究は、同大乳腺科学分野の呉蓉榕臨床助教、石川孝主任教授ら、米国ロズウェルパーク総合がんセンターの高部和明主任教授、横浜市立大学消化器・腫瘍外科学の押正徳助教、遠藤格主任教授、兵庫医科大学乳腺・内分泌外科学の永橋昌幸准教授、三好康雄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of Surgery」に掲載されている。
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TILは乳がんの治療効果や予後に関連する。従来、TILは、腫瘍周囲に存在するものが視覚的に評価されてきたが、腫瘍内TILはばらついて存在するため評価が難しく、客観性にも欠けていることが問題となっていた。そこで今回、研究グループは個々の腫瘍における遺伝子発現パターンを解析して腫瘍内TILを推定するスコアを開発し、より客観的な評価を試みた。
TILはHER2陽性乳がん/TNBCで「多」、悪性度低いER陽性/HER2陰性乳がんは「少」
今回の研究では、遺伝子発現パターンから腫瘍内TILを推定するTILスコアを確立。TILスコアを用いたところ、腫瘍内TILは悪性度の高いHER2陽性乳がんと、トリプルネガティブ乳がんで多く、悪性度の低いER陽性/HER2陰性乳がんでは少ないことが判明した。
一方で、腫瘍内TILが多いER陽性/HER2陰性乳がんでは乳がん細胞増殖が促進していることがわかった。手術前化学療法との関係では、腫瘍内TILは必ずしも完全奏功とは関連しなかったが、HER2陽性乳がんと、トリプルネガティブ乳がんにおいて腫瘍内TIL量は乳がん生存率と有意に相関することがわかった。
乳がん予後予測・治療戦略の向上に新たな示唆を与える可能性
今回の研究結果は、腫瘍遺伝子発現パターンを用いた腫瘍内TILの客観的評価によって、乳がんの生物学的特徴のさらなる解明に一歩近づく重要な成果だという。今後は、腫瘍内TILの評価方法の改善や、さらなるメカニズムの解明に向けた研究が期待される。この研究の結果は、乳がんの予後予測や治療戦略の向上において新たな示唆を与える可能性がある、と研究グループは述べている。
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