日本人の炭水化物・脂質摂取量と死亡リスクとの関連を評価
名古屋大学は7月14日、男性の低炭水化物摂取および女性の高炭水化物摂取が全死亡リスクとがん死亡リスクを高めること、女性の高脂質摂取が全死亡リスクを下げる可能性があることを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科予防医学分野の田村高志講師と若井建志教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Nutrition」オンライン版に掲載されている。
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低炭水化物食(いわゆるローカーボ食)や低脂質食は、体重減少や血糖値の改善などを促し、生活習慣病の予防にとって有用ではないかと考えられている。しかし、このような食習慣がもたらす長期的な生命予後(長生きできるか否か)についてはいまだ明らかではない。欧米をはじめとする諸外国における近年の疫学研究は、極端な炭水化物と脂質の摂取習慣が死亡リスクを高めることを示唆しており、低炭水化物食・低脂質食がもたらす「短期的な効果」と「長期的な生命予後」の間に大きな矛盾があるため、国際的な関心が高まっている。しかし、欧米人よりも炭水化物摂取量が多く、脂質摂取量が少ない日本人を含む東アジア人での知見はほとんどない。
そこで研究グループは、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)の参加者の追跡調査データに基づき、日本人の炭水化物・脂質摂取量と死亡リスクとの関連を評価した。
男性3万4,893人、女性4万6,440人の約9年間の追跡データを分析
研究対象者は、J-MICC研究のベースライン調査(第1回目調査)に参加した人のうち、分析に必要なデータが全て整っており、がん・心血管疾患の既往歴を有しない男性3万4,893人と女性4万6,440人(平均追跡期間はおよそ9年)。
研究対象者の1日あたりの炭水化物・脂質摂取量(g)は食物摂取頻度調査票によって推定し、エネルギー比率(%)で表した(炭水化物1gは4kcal、脂質1gは9kcalのエネルギーを生成)。関連を評価するにあたり、死亡リスクに大きな影響を与える喫煙や飲酒などの交絡要因を分析モデルで考慮した。
男性は低炭水化物摂取群の全死亡リスク1.59倍
男性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連を見てみると、50-<55%群(基準群)を1としたとき、低炭水化物摂取群(<40%群)の全死亡リスクは1.59倍(傾向性P値=0.002)、がん死亡リスクは1.48倍(傾向性P値=0.071)に増加した。また、中程度の低炭水化物摂取群(45-<50%群)では、循環器疾患死亡リスクが2.32倍に増加した(傾向性P値=0.002)。精製炭水化物摂取(米飯、パン、めん類、和菓子、洋菓子)と非精製炭水化物摂取に分けて分析したところ、炭水化物摂取量全体での分析結果と同様の傾向を認めたという。
女性は高炭水化物摂取群で全死亡リスク1.71倍
一方、女性では炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連における比例ハザード性がやや認められなかったため(炭水化物摂取の死亡リスクへの影響が一定ではなく時間経過によってやや変化したため)、追跡期間を5年(追跡期間の中央値の約半分)に区切り、分析を行った。追跡期間が5年以上の場合、50-<55%群(基準群)を1としたとき、高炭水化物摂取群(≥65%群)で全死亡リスクが1.71倍に増加し(傾向性P値=0.005)、がん死亡リスクでも同様の傾向を認めた(傾向性P値=0.003)。追跡期間が5年未満の場合、45-<50%群と≥60%群で循環器疾患死亡リスクが増加した(それぞれ4.04倍、3.46倍)。精製炭水化物と非精製炭水化物に分けた分析では、明らかな関連は観察されなかった。
男性は高脂質摂取群のがん・循環器疾患死亡リスク増、女性は脂質摂取量増加でリスク減
次に、男性の脂質摂取量と死亡リスクとの関連を見てみると、20-<25%群(基準群)を1としたとき、高脂質摂取群(≥35%群)でがん死亡リスクは1.79倍、循環器疾患死亡リスクは脂質摂取量とともに増加した(傾向性P値=0.020)。脂質摂取の質を考慮するため、飽和脂肪酸摂取(肉類、乳製品、加工食品に多く含まれる脂質)と不飽和脂肪酸摂取(魚、植物油、ナッツ類に多く含まれる脂質)に分けて分析したところ、不飽和脂肪酸の摂取量の少なさが全死亡リスクとがん死亡リスクを高めていることが判明した。
一方、女性では脂質摂取量が増加するほど全死亡リスクとがん死亡リスクが減少する傾向が観察された(それぞれ傾向性P値=0.054, 0.058)。飽和脂肪酸摂取と不飽和脂肪酸摂取に分けて分析したところ、飽和脂肪酸の摂取量の増加が全死亡リスクとがん死亡リスクを低下させる傾向にあったとしている。
低炭水化物食の推奨、高脂質食の制限が必ずしも良いとは言えない可能性
今回の研究では、喫煙や飲酒などの交絡要因を統計学的に調整した上で、日本人の極端な炭水化物摂取および脂質摂取が「長期的な生命予後」に影響を与える可能性が示された。同結果は、「ローカーボ食またはハイカーボ食がよい」「脂質摂取はできるだけ控えたほうがよい」とする食事習慣の見直しを提案している。
「J-MICC研究の追跡調査を続けることにより、解析可能な症例数が多くなることから、今後はより細かな死因ごとの検討やがん部位別での評価が可能になる。また、他の研究による日本人一般集団での本関連の再現性、分子生物学的なメカニズムの探索と解明が期待される」と、研究グループは述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース