県内推薦枠は、和歌山県の薬剤師不足や偏在を解消する対策の一つとして、薬学部新設時に設定された。県の高校に通う生徒や県在住の高校生を対象に優遇入学枠を設ける一方、卒後は県内の病院や薬局で2年間の研修を受ける義務を課した。給料を受け取り働きながら学ぶレジデントの身分や、給料の財源をどう設計するかが課題で、学内外で協議を進めている。
現在の案は、薬学部内に寄付講座を開設し、県内推薦枠の薬学生は卒後同講座に所属して、和医大職員の身分で県から給料を受け取るというもの。寄付講座は自主財源のほか、県内各自治体、病院、薬局、企業等の寄付金で運営する計画で、いくつかの関係機関から拠出の内諾を得ている。研修生を受け入れる病院や薬局等からの寄付金に加えて同基金を活用できれば、柔軟な運用が可能になる。
2021年秋以降に同基金の活用事例が整理され、薬剤師不足や偏在の解消目的で病院への薬剤師派遣や奨学金に活用できる方針が示された。厚生労働省は、各都道府県単位の医療計画を策定する上で、計画に薬剤師確保策を盛り込むよう求めている。薬学部新設の準備段階では財源に同基金を使う構想はなかったが、こうした社会情勢の変化を踏まえ、卒後地域研修に同基金を活用できる道筋が見えてきた。
同基金の具体的な使い道は各都道府県に委ねられている。今後、県との協議を重ねて、今年度内に策定予定の医療計画や、来年度以降の県の事業に反映してもらいたい考えだ。
21年春に入学した薬学部の第1期生は現在3年生。卒後2年間の地域研修は4年後の春から始まる。4年後を待つのではなく、前倒しで寄付講座を早期に立ち上げ、当初は他大学卒の薬剤師を受け入れて地域研修を行うことも視野にある。
地域研修は、卒後1年目に和歌山市を中心とする県内の基幹病院で先進医療の研修を実施し、2年目には県内各地の中核病院や薬局で地域医療の研修を行う計画。質の高いプログラムに基づく研修で、地域のリーダーを育成することも目的の一つだ。2年間の研修を受けた後どこで働くかは自由だが、一定数は県内に残ると見込んでおり、毎年の累積で大きな力になると期待している。
地域研修の制度設計を担当する副薬学部長の松原和夫教授は、地域枠入学と卒後の地元での研修を連動させた教育体制について、「新しい薬剤師の卒後研修モデルになるだろう」と語る。同基金の活用が実現すれば、モデルとしての重みがさらに増すことになる。
松原氏は「当校に限らず、各薬系大学と各都道府県が連携して同じような仕組みを作る動きが広がるのではないか。大学にとっては入学者を確保できるし、自治体にとっては薬剤師の偏在を解消できる。学生も含め三者が得をする仕組みになり得る」と話す。