薬局薬剤師のアサーティブネスと医師の処方変更の頻度との関連性は不明だった
筑波大学は7月7日、薬剤師のコミュニケーションスキルが医師の処方変更と関連することを見出したと発表した。この研究は、同大医学医療系の小曽根早知子講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Research in Social and Administrative Pharmacy」にオンライン掲載されている。
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安全な医療を行う上で、医療専門職間の良好なコミュニケーションは重要だ。コミュニケーションスキルのうち、他者を尊重しつつ率直に自己表現をする「アサーティブネス」は、治療の安全性に懸念のある場合に、医療専門職が他職種に助言する際に役立つとされてきた。自己表現のスタイルとしては、自己を後回しにする「非主張的な自己表現」、自身の考えを押し付ける「攻撃的な自己表現」、それらのどちらでもなく「相互理解を深めようとする自己表現」の3つがあり、アサーティブネスは、非主張的でも攻撃的でもなく、自身と他者の両方を尊重するコミュニケーションスキルと定義されている。
調剤薬局に所属する薬局薬剤師は、病院や診療所に所属する医師が発行する処方せんに基づいて患者に薬剤を提供する。その際には患者への聞き取りや記録、検査情報をもとに、処方せんの適切性を検討する。そして、薬物治療の安全性に懸念のある場合には医師へ連絡し、それを受けた医師は必要に応じて処方の変更を行う。医師とは異なる組織に所属する薬局薬剤師のアサーティブネスは、薬物治療の安全性に懸念のある場合の医師への発言の助けになることが予想された。しかし、薬局薬剤師のアサーティブネスと、医師の処方変更に至った連絡の頻度との関連については、解明されていなかった。
アサーティブな自己表現の高い薬剤師の提案は、医師の処方変更を促す
研究グループは、調剤薬局に勤務する薬剤師3,446人を対象に、2022年5~10月の間にWebアンケート調査を実施し、963人から回答を得た。直近1か月間に医師への連絡による処方変更があった頻度を尋ねるとともに、アサーティブネスに関連した3つの自己表現について、日本の薬剤師を対象に開発された医療チームに参画する場面の自己表現を測定する「Interprofessional Assertiveness Scale」を用いて評価し、これらの関連性を検証した。
その結果、アサーティブな自己表現の高い薬剤師ほど、医師の処方変更を伴う提案を頻繁に行っていたことが判明した。このことは、医師と相互理解を深めようとする薬剤師のアサーティブな自己表現が、医師の処方変更を促すことを示しているという。
医師が処方を決める際、信頼する薬剤師とのコミュニケーションに影響を受ける可能性
これまでの研究では、アサーティブな自己表現を用いると相手からの信頼を得ることにつながり、結果として両者間のコミュニケーションが円滑になることが知られている。また、医師が処方を決める際には、信頼する薬剤師とのコミュニケーションに影響を受けると言われている。
今回の結果から、薬剤師のアサーティブな自己表現は、薬剤師への信頼に基づく医師の処方変更と関連があると考えられた。
アサーティブネスが薬物治療の安全性向上に寄与することに期待
アサーティブネスは、教育によって向上するコミュニケーションスキルであることがわかっている。薬剤師から医師への連絡は、他の薬との飲み合わせや適正な薬の投与量について薬剤師が改めて確認するプロセスであり、これに伴う処方変更も含め、安全な治療のためには非常に重要だ。
「今後さらに、薬局薬剤師に対するアサーティブネス教育により、医師への必要な連絡の積極的な実施を促進することが明らかとなれば、薬物治療の安全性向上に寄与すると期待される」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL