コレステロール値を安定させることが認知症予防に寄与か
血中の脂質値の変動は、アルツハイマー病(AD)やアルツハイマー病に関連する認知症(ADRD)のリスクを上昇させる可能性のあることが、米メイヨー・クリニックのSuzette Bielinski氏らの研究で示唆された。この研究結果は、「Neurology」に7月5日掲載された。
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Bielinski氏らは、追跡開始時点(2006年1月1日)にはADまたはADRDのなかった60歳以上の男女1万1,571人(平均年齢71歳、女性54%)のデータを収集して分析した。対象者には、試験開始前5年間の総コレステロール(TC)値、トリグリセライド(中性脂肪、TG)値、LDLコレステロール(LDL-C)値、HDLコレステロール(HDL-C)値のうち、3種類以上の測定値がそろう人が選ばれた。
中央値12.9年に及ぶ追跡期間中に、2,473人がADまたはADRDを発症していた。それぞれの脂質値の変動の大きさに応じて、変動が最も小さいQ1から最も大きいQ5までの5群に対象者を分け、性別や人種、教育歴、脂質低下薬の使用の有無などの因子を調整して分析した。その結果、TC値のQ5群ではQ1群と比べてADまたはADRDの発症リスクが19%(ハザード比1.19、P=0.011)、TG値のQ5群ではQ1群と比べて同リスクが23%(同1.23、P=0.002)高いことが明らかになった。一方、LDL-C値とHDL-C値の変動とADまたはADRDの発症リスクとの間に有意な関連は認められなかった。
このような結果が得られたものの、Bielinski氏は、「TC値やTG値の変動がADリスクに関連している原因や、その機序に関しては不明なままだ」としている。それでも同氏は、今回の結果の有用な点として、「血液検査で測定されたTC値やTG値の経時的な変動は、認知症リスクが高い人の特定や、認知症発症のメカニズムの解明にも役立つ可能性がある。最終的には、脂質値の変動の抑制が認知症リスクの低下に寄与するかどうかを明らかにできるかもしれない」と述べている。
今回の研究には関与していない米ノースウェル・ヘルスのザッカー・ヒルサイド病院のMarc Lawrence Gordon氏は、「この研究によってこれらの脂質値の変動がADやADRDの原因であることが証明されたわけではない」と強調する。同氏は、「認知症発症の原因が脂質値の変動なのか、あるいは認知症を発症しやすい状態が脂質値の変動をもたらしているのかは不明だ」と指摘。「このデータから具体的な対策についてアドバイスすることは難しい」と話している。
一方、専門家の一人で米アルツハイマー病協会グローバルサイエンス・イニシアチブのディレクターであるChristopher Weber氏は、心臓の健康と脳の健康が強く結び付いていることを指摘し、TC値やTG値を抑えることが認知症予防に役立つ可能性はあるとの見方を示している。
Weber氏は、コレステロールの変動は脳の血管の状態に影響を与え、認知機能の低下やADを含む認知症の発症リスク上昇の一因となる可能性があると言う。また、同氏は脳の血管機能不全がコレステロールの変動とADとの関連に関与している可能性も指摘している。その上で同氏は、「TC値やTG値を低く、安定した値に維持することはADリスクを低下させる上で有益かもしれない」と付け加えている。
Weber氏は、「もし自分の心血管の健康状態やコレステロール値、あるいは認知機能の低下が心配なら、かかりつけ医や医療従事者に必ず相談すべきだ。心臓の健康状態の指標となる検査値を把握し、必要であれば治療を受け、全般的に心臓と脳の健康に良い生活習慣を心掛けることが望ましい」と助言している。
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