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ウイルス感染時の重症化、発熱で腸内細菌叢が二次胆汁酸を増加し抑制-東大医科研ほか

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2023年07月14日 AM10:54

外気温や体温はウイルス感染後の重症度に影響するのか?

東京大学医科学研究所は7月7日、38℃以上に上昇した体温()が腸内細菌叢の活性化を介して二次胆汁酸量を増加させ、ウイルス性肺炎の重症化を抑制することを分子レベルで明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所の一戸猛志准教授と、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授、順天堂大学大学院医学研究科総合診療科学の内藤俊夫教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

これまで、外気温や体温がウイルス感染後の重症度に与える影響について詳細に解析された例はなかった。東京では夏に気温が36℃に達することもある一方、1月の平均最低気温は約4℃まで低下する。またインフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の死亡率は、高齢者で高くなることが知られている。高齢者は筋力の低下などが原因で基礎体温が低下することから、研究グループは外気温や体温に着目し、それらがインフルエンザウイルスやSARS-CoV-2に対する抵抗力に与える影響について解析した。

36℃飼育マウス、インフルエンザ・SARS-CoV-2感染に対して抵抗力高い

外気温や体温がインフルエンザウイルス感染後の重症度に与える影響を解析するため、マウスを4℃、22℃、36℃条件下で7日間飼育した。すると22℃飼育マウスと比較して4℃飼育グループではマウスの基礎体温が有意に低下することがわかった。逆に36℃条件下で飼育した場合、マウスの基礎体温は38℃を越えるようになることもわかった。このマウスにインフルエンザウイルスを経鼻的に感染させ、ウイルス感染後も各温度条件下で飼育したところ、22℃飼育グループと比較して、4℃飼育グループではウイルス感染後に重症化したが、36℃飼育マウスでは致死的なウイルス感染に対して抵抗力を獲得していることがわかった。同様に36℃飼育マウスでは致死的なSARS-CoV-2感染に対して抵抗力を獲得していることがわかった。

低食物繊維食や抗生物質を与えたマウス、ウイルスへの抵抗力失う

36℃条件下で飼育したマウスの体温が38℃を越えるようになるとウイルス感染に対する抵抗力が高くなる理由として、発熱により温められた体内の腸内細菌叢が活性化しているのではないかと考えた。この仮説を検証するため、通常のエサと水道水を与えたコントロールグループ、低食物繊維食と水道水を与えた低食物繊維食グループ、通常のエサと抗生物質を混ぜた水道水を与えた抗生物質グループに分け、このマウスを36℃条件下で飼育したあと、インフルエンザウイルスを経鼻的に感染させた。するとどのグループもウイルス感染前後の体温は38℃以上に保たれていたものの、低食物繊維食グループや抗生物質グループはインフルエンザウイルス感染に対する抵抗力が失われていることがわかった。このことから、インフルエンザウイルス感染に対する抵抗力の獲得には38℃以上の体温そのものではなく、発熱により温められた際の腸内細菌叢の活性化が重要であることが示唆された。

メタボローム解析、36℃飼育マウスは一次・二次胆汁酸の濃度高い

次に、ウイルス感染に対する抵抗力が高くなる36℃飼育マウスの体内で何が起こっているのかを解析するため、4℃、22℃、36℃で7日間飼育したマウスの血清サンプルを用いてメタボローム解析を行った。すると一次胆汁酸であるコール酸や二次胆汁酸であるデオキシコール酸(DCA)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)の濃度が36℃飼育マウスの血中で有意に高くなっていることがわかった。

二次胆汁酸がウイルス感染後の重症化予防に関与

また、22℃飼育条件下のマウスに通常の水道水またはDCAやUDCAを混ぜた水道水を与え、インフルエンザウイルスを経鼻的に感染させた。するとDCAやUDCAを与えたグループでは、肺のウイルス量や好中球の数が減少し、インフルエンザウイルス感染後の生存率が有意に改善することがわかった。

さらに、胆汁酸受容体であるTGR5のアゴニストであるHY-14229がインフルエンザウイルスの増殖や炎症反応を抑制する効果を示すのかを調べるため、培養細胞やマクロファージにインフルエンザウイルスを感染させ、HY-14229存在下で24時間培養した。するとHY-14229存在下では、インフルエンザウイルスの増殖やウイルス感染により誘導されるIL-1βの産生が抑えられていることがわかった。

COVID-19中等症I/II患者では、軽症者より胆汁酸レベルが低い

最後にCOVID-19患者の重症度と血漿中の胆汁酸レベルに相関があるかどうかを解析した。COVID-19患者を軽症、中等症I/IIのグループに分けると、確かに血漿中の重症化マーカーであるフィブリノーゲンが中等症I/IIグループで有意に高くなっていることがわかり、逆に胆汁酸の一種であるグリシン抱合型コール酸(GCA)が中等症I/IIグループで有意に低くなっていることが明らかとなった。このことはヒトにおいてもCOVID-19の重症度と胆汁酸レベルに逆相関関係があることを示している。そこで22℃飼育条件下のハムスターに通常の水道水またはGCAまたはDCAを混ぜた水道水を与え、SARS-CoV-2を経鼻的に感染させるとGCAやDCAを与えたグループでは、SARS-CoV-2感染後の生存率が有意に改善することがわかった。

「今回の知見を活かして、今後は高齢者がインフルエンザやCOVID-19で重症化しやすくなるメカニズムの解明や、宿主とウイルスの共生メカニズムの解明、胆汁酸受容体を標的としたウイルス性肺炎の重症化を抑える新しい治療薬の開発に向けた研究を推進する予定だ」と、研究グループは述べている。

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