EBVによってB細胞が「がん化」するメカニズムは不明だった
藤田医科大学は7月10日、EBウイルス(EBV)感染によって誘導させるB細胞がん化のメカニズムの一端を解明したと発表した。この研究は、同大医学部ウイルス学の杉本温子博士研究員(現:名古屋大学大学院医学系研究科ウイルス学助教)、村田貴之教授、がん医療研究センターの佐谷秀行教授、名古屋大学大学院医学系研究科ウイルス学の木村宏教授、名古屋市立大学大学院医学系研究科の奥野友介教授、名古屋医療センターの岩谷靖雅部長、東北医科薬科大学医学部の神田輝教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Microbiology Spectrum」電子版に掲載されている。
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EBVは成人の90%以上が感染している、ごくありふれたウイルスで、感染しても多くの場合はほとんど症状を示さず、体内で主にB細胞に潜伏する。しかし、まれにバーキットリンパ腫や移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)などのがんの原因となることがある。実際、健常人由来初代B細胞にEBVを感染させると、効率よく細胞を不死化することができる。研究グループは今回、EBVによってB細胞ががん化する機構を明らかにすべく研究を行った。
EBVの初代B細胞感染で核小体が急速に肥大化、肥大化にはIMPDH2遺伝子発現が必須
健常人由来初代B細胞にEBVを感染させ、電子顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡で形態を観察したところ、B細胞の核小体が急速に肥大化していることを発見した。また、この核小体の肥大化には、細胞がコードするIMPDH2という遺伝子の発現がEBV感染によって誘導されることが必須であることを見出した。
IMPDH2の働きを阻害すると、核小体の肥大化とB細胞の不死化が抑制
IMPDH2遺伝子はde novoのGTP合成に重要な酵素をコードしている。実際にEBV感染によってIMPDH2発現が誘導され、GTPが増産し、rRNAやtRNAの産生が亢進し、これによって核小体が肥大化している様子が観察された。IMPDH2の発現はEBVがコードする転写コファクターであるEBNA2と、MYCの働きにより誘導されていた。
阻害剤やノックダウンによりIMPDH2の働きを阻害すると、EBV感染による核小体の肥大化は抑制され、さらにB細胞の不死化も抑制された。
IMPDH阻害剤で、マウスのEBV陽性腫瘍の形成が抑制
マウス異種移植モデルで、MMFというIMPDH阻害薬を処理したところ、EBV陽性腫瘍の形成が減弱し、マウス生存率が大きく改善した。
以上より、EBVによるB細胞不死化の機序の一端が明らかになっただけではなく、IMPDH阻害剤がPTLDを含むEBV陽性がんの予防・治療に利用できる可能性が強く示唆された。
IMPDH2がEBV陽性がんの予防・治療薬の創薬ターゲットとなる可能性
今回の研究で、IMPDH2がEBV陽性がん、あるいは広くがんに対する予防・治療薬の創薬ターゲットとして適していることが示唆された。特に、MMFはすでに免疫抑制剤として承認されている薬剤であることから、移植における免疫抑制剤として、他の免疫抑制剤ではなくMMFを用いることで、PTLDを効果的に予防できる可能性が示された。
「PTLD以外のEBV陽性がん(バーキットリンパ腫など)の治療のためにMMFを使用してしまうと、随伴する免疫抑制効果が強く発揮されてしまい、別の感染症などを誘発してしまう可能性があるので、別の抗がん剤と組み合わせるなど、より効果的で副作用の少ない治療法を検討する必要があると考えられる」と、研究グループは述べている。
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