ナファモスタットのウイルス減少効果、有効性などを検討
東京大学医学部附属病院は7月11日、国内で抗凝固薬や膵炎の治療薬として広く用いられているナファモスタットメシル酸塩(以下、ナファモスタット)が、発症早期の新型コロナウイルス感染症患者のSARS-CoV-2ウイルス量を減少させる効果を示すことを世界で初めて確認したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の森屋恭爾教授(研究当時)、瀬戸泰之教授、奥川周准教授、東京大学国際高等研究所新世代感染症センターの井上純一郎特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Antimicrobial Agents」に掲載されている。
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新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は依然として続いている。治療や予防のための薬剤の開発が進んだ一方、ウイルス変異によってワクチンや抗体製剤の効果が減弱することが報告されている。日本では現在4つの抗ウイルス薬が承認されているが、今後のウイルス変異による薬剤耐性化への備えとともに、より高い臨床効果を示す治療薬の開発が望まれている。
研究グループはナファモスタットの抗ウイルス効果に着目し臨床研究を続けてきた。ナファモスタットは抗凝固薬や膵炎の治療薬として日本ではすでに広く使用されている薬剤であるが、新型コロナウイルスが細胞内に侵入する際に利用するタンパク質分解酵素TMPRSS2の活性を阻害することで抗ウイルス作用を発揮することも、これまでの研究で確認されている。これは、すでに承認されている抗ウイルス薬とは異なる作用である。
研究グループは、「肺炎を有する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を対象としたファビピラビルとナファモスタットメシル酸塩の併用療法の有効性及び安全性を検討する多施設共同単盲検ランダム化比較試験」(jRCTs031200026)を実施し、ナファモスタットがファビピラビルとの併用で肺炎患者に対し臨床的効果が見られることを報告している。今回の研究では、発症早期の新型コロナウイルス感染症患者に対するナファモスタットのウイルス減少効果および臨床的有効性と安全性を少数例で検討した。
オミクロン株検出の発症早期患者30例を3群に分けて比較
2021年7月より「早期軽症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するナファモスタットメシル酸塩のウイルス抑制効果及び安全性並びに至適用量を検討する探索研究」(jRCTs031210183)を東京大学医学部附属病院と堀之内病院、岡山大学病院、高松市立みんなの病院、守谷慶友病院、東京大学医科学研究所附属病院等と共同で実施し、2022年7月に患者登録が終了した。
同研究では、発症早期(発症後5日以内)に標準治療+ナファモスタット0.2mg/kg/h持続投与(患者の体重1kgにつき1時間あたり0.2㎎を投与する)群(A群)、標準治療+ナファモスタット0.1mg/kg/h持続投与群(B群)、ナファモスタットを投与しない標準治療のみの群(C群)の3群に患者を無作為に割付け、各群10例(計30例)で比較した。A群の1例は試験薬投与前に参加を取りやめた。全ての患者から検出されたウイルスはオミクロン株だった。
ナファモスタット投与群でウイルス減少効果、その一方で約半数に静脈炎
その結果、ナファモスタット投与群(A群とB群の複合群)と標準治療のみの非投与群(C群)とを比較したところ、投与群においてSARS-CoV-2ウイルス量の減少効果が認められ、主要評価項目を達成した。また、ナファモスタット0.2mg/kg/h持続投与(A群)と0.1mg/kg/h持続投与(B群)では、同様のウイルス減少効果がみられた。
一方、バイタルサインや重症度などに対する臨床的有効性は認められなかった。このことは、研究が少数例での探索的研究であることや軽症例が対象であったこと、ワクチン接種率が高かったことによる影響などが考えられた。安全性に関しては、重篤な有害事象はみられなかったが、ナファモスタットメシル酸塩投与群の有害事象として静脈炎が約半数にみられた。
より多くの症例数で臨床的有効性の検討が必要
今回の研究成果から、ナファモスタットを発症早期の新型コロナウイルス患者に投与することで、重症化の阻止や臨床症状の改善が期待される。また、研究グループの先行研究の結果を踏まえ、作用の異なる抗ウイルス薬と併用することで、より高い臨床効果が得られることも期待される。「今後は、安全性を向上させるための投与方法の開発とともに、より多くの症例数でナファモスタット単剤および他剤との併用治療の臨床的有効性を検討することが必要だ」と、研究グループは述べている。
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