脳や脊髄などの中枢神経系病変を高頻度に合併
新潟大学は7月11日、悪性リンパ腫の1つである血管内大細胞型B細胞リンパ腫による脊髄病変の特徴を明らかにしたと発表した。この研究は、同大脳研究所脳神経内科学分野の北原匠大学院生、金澤雅人准教授、小野寺理教授、同脳神経外科学分野の棗田学特任准教授、藤井幸彦教授(研究当時)、同病理学分野の柿田明美教授らと5つの協力病院との共同研究によるもの。研究成果は、「European Journal of Neurology」に掲載されている。
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血管内大細胞型B細胞リンパ腫は、一般的な悪性リンパ腫とは違い、全身の血管内で腫瘍細胞が増殖することでさまざまな臓器に病変を来す。そのため多彩な症状を引き起こし、時に神経症状のみで発症し、診断が困難な場合が多くある。有効な化学療法の開発により治療予後は改善しているため、早期に正確な診断がなされ、治療につなげることが重要だ。
血管内大細胞型B細胞リンパ腫が来す臓器病変の中で、脳や脊髄などの中枢神経系病変は特に高頻度に合併する。脳病変は、脳梗塞や認知機能障害を引き起こし、急速に進行することがこれまでの研究で明らかになっている一方、脊髄病変の特徴は明らかになっていなかった。
脊髄病変の特徴はこれまで不明、診断や治療の遅れに
脊髄病変は、さまざまな疾患が原因となり引き起こされ、四肢の感覚障害や運動障害、排尿障害などを来す。診断や治療の遅れは、重篤な後遺症につながり、患者の生活の大きな支障となる。血管内大細胞型B細胞リンパ腫の場合、脊髄以外にも全身に病変が及び、進行すれば命にかかわる。さまざまな疾患が脊髄病変の原因となるため、診断は疾患ごとに特徴的な経過や画像検査などを参考にして行われる。しかし、血管内大細胞型B細胞リンパ腫は非常にまれな疾患であるため、その特徴について調べることが困難であり、これまで血管内大細胞型B細胞リンパ腫による脊髄病変の特徴は明らかになっていなかった。そのため、診断や治療の遅れにつながる患者が多くいるという課題があった。
脊髄円錐に病変が好発、緩徐に進行する経過をとると判明
研究グループは、血管内大細胞型細胞B細胞リンパ腫による脊髄病変の特徴を明らかにするため、同大医歯学総合病院脳神経内科、同脳神経外科とその協力病院に入院した16人の患者の臨床情報、画像データを収集し、解析を行った。さらに、これまでに症例報告されている脊髄病変をきたした血管内大細胞型B細胞リンパ腫の文献を収集し、解析。今回の研究結果と似た傾向を持つかどうかを確かめた。
その結果、血管内大細胞型B細胞リンパ腫は脊髄の下端(脊髄円錐)に病変が好発し、脳病変とは異なり、緩徐に進行する経過をとることが明らかになった。
脊髄病変を来す他疾患との鑑別に有用
これらの特徴は、脊髄病変を来す他疾患、例えば神経サルコイドーシス、脊髄炎、血管障害、脊椎ヘルニアとの鑑別に役立てることができる。経過と特徴的な脊髄病変から早期に血管内大細胞型B細胞リンパ腫を疑うことが可能となることにより、適切な診断、治療につながり、予後の改善や後遺症の軽減が期待される。
「血管内大細胞型B細胞リンパ腫は、神経症状以外の他臓器の障害による症状や、発熱、体重減少などの全身症状で発症する場合もある。今後、こうしたタイプを含めて比較検討することが、神経症状を主症状とする血管内大細胞型B細胞リンパ腫の早期診断、治療の最適化のために必要と考えられる。また、脳に障害をきたしやすいタイプと脊髄に障害をきたしやすいタイプでの発症の分子的機序解明が今後の課題だ」と、研究グループは述べている。
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・新潟大学脳研究所 研究成果・実績