4本鎖DNA構造を形成するテロメアDNA、抗がん剤の標的として注目される
九州工業大学は7月11日、副作用の低い抗がん剤を新たに開発したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究院の竹中繁織教授、佐藤しのぶ准教授、Tingting Zou助教(現 住友ファーマ研究員)、大学院情報工学研究院の藤井聡助教、九州歯科大学口腔応用薬理学分野の竹内弘教授、福田晃助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「PNAS Nexus」にオンライン掲載されている。
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がんは、20年以上も我が国の死亡率の第一位を占めている。がん治療として手術、放射線治療、薬物治療が行われ、従来の抗がん剤に加え分子標的薬の登場によって治療成績が飛躍的な進歩を遂げている。しかし、治癒することはまれで、がんを抱えながら生活する時間が長くなり、抗がん剤の投与期間が長くなるため副作用の低い抗がん剤が望まれている。がん治療で用いられている従来の抗がん剤(例えばシスプラチン)は、がん細胞だけではなく、正常細胞にも作用して、副作用を引き起こす。そのため、がん細胞に選択的に働く薬の登場が強く望まれている。
ほとんどのがん細胞は、テロメラーゼという酵素の発現によって染色体末端のテロメアDNAが伸長することで不死化する。テロメアDNAは4本鎖DNA(G4)を形成することが明らかになってきており、この構造を安定化すると、テロメラーゼがテロメアDNAを伸長できず、がん細胞の細胞死が誘導されることから、副作用が軽減できる新しい抗がん剤の標的として注目されている。
テロメラーゼ特異的に作用しがんを阻害するcAQ-mBen分子を合成
研究グループは、通常の2本鎖DNAには結合せず、G4に結合する分子として、さまざまな環状アントラキノン(cAQ)の誘導体を開発、G4に強く結合するcAQ-mBenを見出した。
解析の結果、cAQ-mBenはG4 DNA特異的に結合して、その構造を安定化できることを明らかにした。また、がん細胞中のG4 DNAへ結合していることを細胞の蛍光イメージングで証明した。さらに、テロメラーゼを特異的に阻害し、正常細胞に影響を与えずにがん細胞のみの生育を効果的に阻害することが明らかになった。
cAQ-mBen、遺伝子を制御しアポトーシスを誘導
細胞で働いているすべての遺伝子群のRNA-Seqによる網羅的解析とバイオインフォマティクスにより、cAQ-mBenはがん関連の遺伝子やがん抑制に関連する経路に影響を与えること、ミトコンドリア内の酸化的リン酸化(OXPHOS)関連遺伝子群を抑制することが明らかとなった。このことは、cAQ-mBenがアポトーシスを引き起こしていることが示唆された。さらに、cAQ-mBenが影響を与える遺伝子群のプロモーター領域や遺伝子上には、G4構造を形成する可能性のある配列が多く存在していることがわかった。このことから、cAQ-mBenがG4に結合して遺伝子の制御を行っていることが示唆された。
シスプラチンと同等のマウス腫瘍抑制効果、肝臓・腎臓・精巣への副作用なし
ヒト由来がん細胞を植え付けたヌードマウス(マウス異種移植モデル)における抗腫瘍活性に関して、cAQ-mBenはシスプラチンと同等の腫瘍抑制効果を示した。シスプラチン投与マウスでは病理組織学的検査および血清生化学的検査において肝臓、腎臓、精巣に重篤な副作用が現れ、体重も減少したが、cAQ-mBenを投与しても、これらの副作用は見られなかった。
「分子設計によって合成されたcAQ-mBenは、副作用のない効果的な抗がん剤として発展できる可能性を示すことができた」と、研究グループは述べている。
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