初期研修医のGritスコアと抑うつ症状を有する割合の関係を解析
東京医科歯科大学は7月6日、新型コロナウイルス流行下と研修開始時点という高い心的負荷がかかる時期においても、初期研修医のGritが高いことは、抑うつ症状の発生を予防することを突き止めたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科 臨床医学教育開発学分野の赤石雄助教と山脇正永教授、国際健康推進医学分野の那波伸敏准教授の研究グループによるもの。研究成果は、「medical education online」オンライン版に掲載されている。
初期研修医が抑うつ症状やうつ病を有する割合は、一般人口の割合より高いことがわかっている。研修医がうつ病を抱えている場合、抱えていない場合と比較し、医学的なミスを犯しやすいことが報告されており、取り組むべき喫緊の課題のひとつであると認識されている。また、新型コロナウイルスの流行は、感染の恐怖や家族からの隔離など、研修医を含む医療従事者のメンタルヘルスに影響を与えたことも報告されている。
Gritとは、アンジェラ・ダックワースによって提唱された「やりぬく力」という非認知能力の一つで、12項目の質問で構成されている。各方面の成功に大きく貢献していることが報告されており、近年注目を集めている。研究グループは今回、このような心的ストレスの多い状況下で、研修プログラムを開始する初期研修医のGritと抑うつ症状を有する割合の関係を解析した。
221人の研修医を対象に、Gritと抑うつ症状のスコアなどを解析
研究グループは、東京医科歯科大学病院の研修プログラムの初期研修医を対象に、2020~2022年にかけてオンラインアンケートを実施。測定時期は各年度の入職前後の時期に統一した。Gritの点数は、日本語版のGrit-S(Grit short version)の質問紙で測定し、抑うつ症状の有無は、CES-D(うつ病自己評価尺度)の質問紙で測定した。その他、喫煙歴、飲酒、運動習慣、睡眠、食事などに関しても詳細にデータを取得した。
最終的に221人(2020年70人、2021年88人、2022年63人)の研修医を対象にデータ解析を行った。対象者の平均年齢は25.1歳、性別は男性134人、女性87人で、研修開始時点に抑うつ症状を有していたのは28人(12.7%)だった。抑うつ症状を有しないグループのGrit-Sの点数は3.4で、抑うつ症状を有するグループの同点数は3.0であり、この差が解析で大きいことが判明した(P=0.005)。また、Grit-Sの下位尺度である根気尺度の点数において、抑うつ症状を有しないグループと有するグループ間で大きい差があった(抑うつ症状なし群3.7 vs 抑うつ症状あり群3.2、P=0.003)としている。
Grit-Sのスコア1点上昇で、抑うつ症状を有するオッズ63%低下
多変量解析の結果、Grit-Sのスコアが1点上昇すると、年齢や性別などの複数の因子を調整した後に、抑うつ症状を有するオッズが63%下がることが判明(オッズ比0.37、95%信頼区間0.19-0.74)。また、根気尺度のスコアが1点上昇すると、年齢や性別などの複数の因子を調整した後に、抑うつ症状を有するオッズが61%下がる(オッズ比0.39、95%信頼区間0.21-0.72)ことが明らかになった。
非認知能力の育成を意識したカリキュラムの重要性を示す根拠の一つとなる可能性
今回の研究成果により、多大な心理的ストレスのかかる状況において、Grit-Sの点数と抑うつ症状の有無の関連が示された。つまり、Grit-Sが高いと精神を安定させる方向に働き、Grit-Sが低いと抑うつ症状が出現しやすくなるということが明らかになった。そのため、初期研修医のGrit-Sが低い場合には、うつ病発症の予防や早期発見のために、定期的な面談などのフォローが推奨されることがわかった。
「Gritは非認知能力の一つとされているが、このような非認知能力を高める取り組みを研修中や研修前の学生時代に行うことが有益であるとも言える。この発見が今後、非認知能力の育成をより意識した大学でのカリキュラムや講義構成の重要性を示す根拠の一つになる可能性がある」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京医科歯科大学 プレスリリース