心臓エコー検査が可能な技術者が不足、補うためには?
大阪公立大学は7月7日、AIを活用して一般的な胸部レントゲン画像から心機能の評価や心臓弁膜症の分類を高精度で推定するモデルの開発に成功したと発表した。この研究は、同大大学院 医学研究科放射線診断学・IVR学の植田大樹研究員、三木幸雄教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Lancet Digital Health」にオンライン掲載されている。
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心不全の原因の一つである心臓弁膜症は、心臓の弁が開かない「弁膜狭窄」と弁が閉じない「弁膜逆流」に大別される。心臓弁膜症の診断には、左室駆出率や弁の状態を心臓エコー検査によって行うが、この検査は高度なスキルを必要とし、技術者が不足している状況だ。心臓弁膜症の背景には、生活習慣病や心筋梗塞、老化などがあり、高齢化社会においてその患者数は今後も増加されることが予想されている。
胸部レントゲン撮影は一般的な検査であり、主に肺の疾患を診断するために使用される。胸部レントゲン写真には心臓も写っているが、これまで胸部レントゲン画像と心臓の機能や病気との関係はほとんどわかっていなかった。 胸部レントゲンによる検査は、基本設備として保有している病院の多さから撮影機会も多く、撮影時間も短いため、検査の再現性に優れている。そこで、AIモデルにより胸部レントゲンから心臓の機能や病気がわかれば、技術者が不足している心臓エコー検査を補完できる可能性があることに着目した。
約1万7,000人分の胸部レントゲンと心臓エコー検査データを収集、AIが学習
今回、研究グループは、AIのディープラーニングを用いて、胸部レントゲン画像から心臓の機能や心臓弁膜症の分類を推定するモデルを開発した。AIモデルの開発と検証を行うため、胸部レントゲンと心臓エコー検査の両方を2週間以内に受けた患者を対象とし、2013年から2021年までの間に4施設から合計1万6,946人、2万2,551件(同一患者データ含む)の胸部レントゲン画像と心臓エコー検査結果のペアデータを収集した。収集したデータは、胸部レントゲン画像を入力に設定、心臓エコー検査結果を出力に設定し、AIモデルには両データの間の特徴を学習させた。
中等度以上の僧帽弁閉鎖不全症のAUCは0.89
その結果、AIモデルは心臓弁膜症のうち、中等度以上の僧帽弁閉鎖不全症の検出で0.89、中等度以上の大動脈弁狭窄症の検出で0.83、他の心臓弁膜症(大動脈閉鎖不全症・僧帽弁狭窄症・三尖弁閉鎖不全症・三尖弁狭窄症)で0.83~0.92、40%をカットオフとした左室駆出率の分類で0.92という高い精度のAUCを示した。
心臓エコー検査が困難な状況下での活用に期待
研究の成果は、専門医や技師が不在・不足している状況において、開発したモデルが心臓疾患に対する予備検査として有効であることを示唆している。例えば、心臓エコー専門医がいない地域や、夜間救急外来などの状況下での活用が想定できる。また、心臓エコー検査時に、長時間検査姿勢をとることができない患者への代替検査としての活用も想定される。「今後は、AIにも更なる改良を加え、実用化を目指したい」と、研究グループは述べている。
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・大阪公立大学 プレスリリース