母が一人で育児・家事すべてを行う「ワンオペ育児」の問題
富山大学は7月6日、父親の長時間労働が子との関わりを減らす大きな要因であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大エコチル調査富山ユニットセンターの笠松春花リサーチコーディネーターら、群馬大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Public Health」に掲載されている。
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乳児を育てる夫婦には、授乳・おむつ替え・入浴等、慣れないお世話が一気に押し寄せ、かつ、今まで通りに家事もこなさなければならない状況がある。子育ては、夫婦だけでなく多くの人が関わってこなしていくものだが、母親が一人で育児も家事もすべてを行う「ワンオペ育児」に関する問題が近年クローズアップされている。
研究グループは以前、父親の育児行動が多いと母親の心理的苦痛が低減する可能性があるという研究結果を報告した。このことは、父親が育児行動に関われず母親のみのワンオペ育児になると、母親の心理的苦痛が高くなり、心の健康が保てなくなるということを示していると考えられる。
全国4万3,159組夫婦対象、父の労働時間と育児行動頻度の関連を検討
そこで今回研究グループは、父親の育児行動を妨げる要因として父親の労働時間に着目。もし両者の量的な関係がわかれば、父親の育児を推奨するための労働時間の指標を明確にできる可能性があるという。今回の研究では、子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に参加する4万3,159組の夫婦について、父親の労働時間の長さと育児行動の頻度の関連を検討した。
父親の育児行動として評価したのは、「室内で遊ぶ」「外で遊ぶ」「おむつ替え」「着替え」「お風呂に入れる」「食事の介助」「寝かしつけ」の7項目。父親がこの7項目を取り組む頻度について、対象の子どもが生まれて6か月の頃の状況を母親が評価した。そして、父親の育児頻度を「しない」「する」の2段階に分け、「しない」と関連する要因を検討した。「父親の労働時間」は、1週間当たりの就業時間について父親自身が回答した結果に基づき集計した。
父の労働時間、長ければ長いほど育児行動「しない」状況増
調査の結果、調べた7つの育児行動はいずれも、父親の労働時間が長ければ長いほど「しない」状況が増えるという関連が確認された。特に、週65時間超働いている父親は、いずれの行動もしない率が高くなった。
一週間の法定労働時間は40時間と設定されている。従って、今回の群分けで40時間を超える人たちは、いずれも残業をしている人々だ。今回の研究は、労働時間の法改正が行われた2019年以前の2011~2014年にかけて取得したデータになる。法改正前の情報のため、現在罰則の対象となるような週当たり15時間超の残業をしている「55時間超65時間以下」、「65時間超」という区分がある。労働時間別の集計をすると、同解析対象者約4万3,000人の父親のうち「55時間超65時間以下」が16.2%、「65時間超」が15.2%おり、この当時は決して少数派ではなく、他の労働時間区分の頻度とさほど変わらない人数がいる状況だったとしている。以上のことから、今回の研究結果は、決して珍しい集団に対してたまたま生じた結果ではないと考えているとしている。
父の育児関与時間増加により母の心理的苦痛の改善に期待
現在の法定基準以上の時間数の労働をしている父親たちは、子育てに割く時間が非常に制限されていた状況がわかった。父親が働きすぎだと育児に関われないという結果は、改めて言われるまでもなく、実際の生活からも肌感覚で感じられるものかもしれない。しかし、日本全体をカバーするような大規模な研究集団から得られた結果を示した研究は今までなかった。また、日本以外の国で、日本ほど長時間労働している人々がいる国というのも非常に限られている。以上のことから、研究グループは同研究結果について、父親の労働時間が父親自身の子育て行動に関連しているということを示した非常に画期的な研究と考えているとしている。
現在は、このデータ収集をした時期と比べると、多くの人々の労働時間が短縮される法改正が行われた。この法改正により、父親が育児に関与する時間が増えることで母親の心理的苦痛が改善されることが期待される。一方、同研究が情報収集した父親の労働時間や子育ての状況については客観的な指標ではなく、質問票への自己申告による回答に基づいていることなど、いくつか研究の解釈にかかわるような問題点もある。今後は現時点の父親の労働時間と育児状況について改めてデータ収集し、同研究結果が再現できるか検証することで育児期の父親の適切な労働時間を検討する必要がある、と研究グループは述べている。
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・富山大学 プレスリリース