新型コロナ感染は軽症でも精液の質に長期的に影響か
たとえ軽症で済んだとしても、新型コロナウイルスに感染することで、3カ月以上にわたって精液の質が低下する可能性のあることが、URインターナショナルグループ(スペイン)のRocio Núñez-Calonge氏らによる研究で示された。この研究結果は、欧州ヒト生殖医学会の年次集会(ESHRE 2023、6月25〜28日、デンマーク・コペンハーゲン)で発表された。
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「これまで、新型コロナウイルス感染が精液の質に短期的な影響を与えることを示した研究結果は報告されていたが、われわれの知る限りでは、長期にわたる追跡調査の結果は報告されていない」とNúñez-Calonge氏は言う。また、「われわれは、新しい精子が作られれば精液の質は向上すると考えていたが、そうではなかった。精液の質が回復するまでにどれくらいの時間がかかるのかについては、現時点では不明だ。軽症であっても新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患が生涯にわたって精液の質に悪影響を及ぼす可能性も考えられる」としている。
Núñez-Calonge氏らは、不妊治療のためにクリニックを受診したスペインの男性の一部で、軽症のCOVID-19への罹患後に精液の質が罹患前よりも低下していたことから、今回の研究を行うことにしたという。「新しい精子が作られるまで約78日かかるため、COVID-19からの回復後3カ月以上経ってから精液の質を評価するのが適切だと考えられた」と同氏は説明している。
対象は、2020年2月~2022年10月にスペインの6施設の不妊治療専門クリニックで募集した男性45人(平均年齢31歳)。これらの男性は、全員が軽症のCOVID-19の診断歴を有していた。男性が通院していたクリニックでは、新型コロナウイルス感染前の精液のデータが記録されていた。また、感染から17~516日後にも精液の採取が行われていた。新型コロナウイルス感染から100日後までの間に採取された精液と、感染から100日以上経過してから採取された精液の分析を行い、感染前のデータと比較した。
その結果、精液のさまざまな指標について、新型コロナウイルス感染の前後で統計学的に有意な差が認められた。例えば、精液の量は20%減少し(2.5mL→2mL)、精子の濃度は26.5%低下していた(精液1mL当たり6800万→5000万)。また、精子の数は37.5%減少し(精液1mL当たり1億6000万→1億)、前進できる精子の割合を示す運動率は9.1%低下していた(49%→45%)。さらに、生存精子数も5%減少していた(80%→76%)。
COVID-19罹患の影響は、精子の運動率と全精子数に最も顕著に表れていた。約半数の男性で、新型コロナウイルス感染前と比べて感染後には、全精子数が57%減少していた。一方、精子の形状に対する有意な影響は確認されなかった。精子の濃度と運動率は感染から100日以降に採取された精液でも改善が認められなかった。
これらの結果についてNúñez-Calonge氏は、「感染から100日以上経過した時点でも、精液の質に対する新型コロナウイルス感染の影響は持続していた。たとえ軽症であっても、COVID-19罹患がもたらす恒久的なダメージがその原因となっている可能性はある。臨床医は、COVID-19罹患が男性の生殖機能に与える有害な影響について認識しておくべきだ」との見解を示している。
Núñez-Calonge氏は、免疫システムに対する炎症性のダメージがこうした現象に関与している可能性を示唆し、「炎症のプロセスでは、免疫システムに関与する白血球の浸潤によって生殖細胞が破壊されたり、男性ホルモンを分泌する間質細胞に影響が及び、テストステロンの量が低下したりする可能性がある」と説明している。
ただし、Núñez-Calonge氏は、研究で示された精液の指標の悪化について、「新型コロナウイルスが直接的な原因となっているとは限らない」と話している。また、「COVID-19に罹患した男性では、生殖機能に関わるテストステロン値が大幅に変化することが先行研究で示されているが、今回の研究ではホルモン値の測定を行わなかった」と述べている。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。
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