「遺伝的素因」が共通しているがんのペア、欧米人+日本人ゲノムデータで大規模解析
大阪大学は6月20日、バイオバンク・ジャパンやUKバイオバンクなどで収集された計118万人のヒトゲノム情報を用いて、13種類のがんを対象にした大規模ゲノム解析を実施し、さまざまな種類の複数のがんの発症に関わる遺伝子多型を5か所同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科博士課程の佐藤豪大学院生、岡田随象教授(兼 東京大学医学系研究科、理化学研究所生命医科学研究センター)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
がんの発症には各個人の「遺伝的素因」が関与していることが知られている。これまで各がん種において、GWASという手法を用いて、「遺伝的素因」に影響を与える遺伝子多型が数多く同定されてきた。近年では、複数のがんを対象に同手法を用いてがん種横断的な解析を行うことで、複数のがんの発症に影響を与える遺伝子多型も報告されている。また、複数のがんに対してゲノム解析を行った研究から、「遺伝的素因」が共通しているがんのペアがいくつか報告されている。しかしながら、このような研究はほとんどが欧米人のゲノムデータを解析したものである。がんの中には、胃がんや肝臓がんなど日本を含む東アジアに多くみられるものがあり、「遺伝的素因」が人種間で異なっていると考えられるものも存在する。今回、日本人集団と欧米人集団のゲノムデータを活用して、大規模ながん種横断的な研究を実施した。
特定のがん発症とさまざまながん発症に関わる遺伝子多型、それぞれ5か所同定
今回、研究グループは、バイオバンク・ジャパン(日本)やUKバイオバンク(英国)などで収集された計118万人のヒトゲノム情報を用いて、13種類のがんを統合した大規模なゲノム解析を実施した。まず、一つ一つのがんを対象としたGWASを実施することで、特定のがんの発症に関わる遺伝子多型を5か所同定した。続いて、13種類のがんすべてを対象としたがん種横断的なGWASを行うことで、さまざまながんの発症に関わる遺伝子多型を5か所同定した。その中には、日本人と欧米人に共通した効果を示すTRIM4領域の遺伝子多型などがあった。
乳がんと前立腺がんに共通する素因を発見、2種類の発症に関わる91遺伝子多型を同定
次に、研究グループはがん同士の遺伝的相関を評価した。その結果、乳がんと前立腺がんの間で「遺伝的素因」に共通部分があり、この関係は日本人と欧米人に共通して認められることがわかった。この関連に注目した研究グループは、バイオバンク・ジャパンやUKバイオバンク以外のデータも利用することで、乳がんと前立腺がんを統合した大規模なGWASを実施し、これら2種類のがんの発症に関わる91の遺伝子多型を同定した。さらに、その結果を用いて、乳がんと前立腺がんの相関関係の背景となる因子について解析を行った結果、アポトーシスと性ホルモンに関わる遺伝子や上皮細胞が2種類のがんの発症に共通して関わっていることが明らかになった。
遺伝的素因が共通するがんに注目した解析、発がんメカニズム解明につながる可能性
「同定された遺伝子多型やその標的となる遺伝子に関する研究が今後さらに進んでいくことで、さまざまな種類のがんをターゲットとした治療標的の同定や創薬につながることが期待される。また、今回の研究成果により、さまざまな種類のがんを対象とした大規模な研究や、『遺伝的素因』が共通しているがんのペア・グループに注目した解析が複雑な発がんメカニズムの解明につながる可能性が示唆された」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪大学大学院医学系研究科 主要研究成果